第52話 医院の人気者

「はあ、またか」

 医院には診察待ちの長蛇の列が出来ていた。これは、ほぼティア目当ての患者達だ。

 出来るだけ医院に体調不良を診てもらうよう言ったが、仮病の人間も多くいる。

「まあ、先生の経験値にはなるか……」

 看護服姿のティアの破壊力は凄まじい。噂が噂を呼び、今ではティアが来るとネットワークで情報が伝播する。これはフェイから聞いた話だがファンクラブまであるらしい。

「先生、生贄どもが来たぞ。用意しろ」

「は、はい」

「先生落ち着いて、ほとんどが健康体です。間違い探しみたいなものですよ」

「はい、頑張ります」

 先生はティアの激励に奮起したようだ。これで、将来結婚して欲しいとか言い出したらどうしよう。100%振られる。傷心で町を去るかもしれない。町長に新しい看護婦を打診するべきだろう。

「オレはちょっと用事を思い出したから後は任せる」

「あ、はい」

「お気を付けて」

 町長こと墓守の所に行こう。



「墓守いるか?」

「なんだ、また死体を運べと?」

「今回は違う。人材が欲しい」

「ふうん、ウルルスにしては珍しい話だ。詳しく聞こう」

 家の中は質素の一言に尽きる。過度に豪華な家に住む町長もしるから墓守の仕事を重視しているのだろう。小柄な体格でいつも覆面を付けている。一見性別が分からないが、ウルルスはまだ若い小娘だと思っている。

「生憎、お茶も菓子も無い。水でいいか?」

「ああ、助かる」

 二人掛けのテーブルの椅子に座る。

「欲しい人材とは?」

「看護婦だ、出来れば美人の」

「美人なら腕は方は重視してしていないのか?」

「腕など幾らでも後から着いてくる。容姿は違うだろ?」

「まあ、確かにな」

「あんたが容姿端麗なら看護婦の仕事もしてほしいところだ」

「なんの冗談だ? 私は忙しい。誰かさんのおかげでな」

「町長にしたのはいつも謝ってるだろ……」

「足りないくらいだ、私はひっそりと墓守がしていたい」

「若いのに随分と達観してるな」

「私にも色々あったのさ……」

「そうかい」

 案外覆面下はティアを超える美貌が隠れているのかもしれない。

「どれくらいの美人がいいんだ?」

「男なら一晩一緒に過ごしたいと思えるくらい」

「それだと王都までいくのが一番だな……」

「娼館から引っ張るのか?」

「看護婦なんて男の面倒が出来れば腕は二の次で良いのだろう?」

「その通りだ。お願いできるか?」

「掛かった金は後で請求するぞ」

「しょうがない、分かったよ」

「では、早速王都に向かう」

「仕事は?」

「なんならお前が片付けていいんだぞ?」

「分かった。町長の裁量が必要ないものは片しておくよ」

「言ってみるものだな」

「なんか言ったか?」

「仕事の資料は二階の机の上にある」

「分かった」

「ではな」

 そのままの格好で出て行ってしまった。必要なモノは王都で買うつもりなんだろうだろう。

「まあ、たまには頭を使うか……」

  

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