第49話 修羅場

 三日経ってもロイは裏打ちを習得しなかった。本来そんなに簡単な技では無い。ホイホイ使っているウルルスがおかしいのだ。

「帰れ、もうコツは教えたんだ」

「いえ、習得するまでは……」

「お前は俺を殺す気か!」

「……。何故ですか?」

「同居人がそろそろ帰ってくるんだよ!」

「ああ、修羅場ですか……」

「分かってるなら帰れよ!」

「私は内弟子ですから大丈夫ですよ」

「弟子を取った覚えはない、帰れ!」

 徐々に近づいて来る三人分の足音に身がすくむ。自分の五感の鋭さを呪う日が来るとは、

「もう駄目だ……」

「へ?」

 思わずその場に突っ伏す。息子と泣き別れになると思うと自然と体が震えてくる。

「その子誰です、ご主人様?」

「信じてもらえないかもしれないが俺に技を教わりに来た子だ」

「ロイと云います」

「へぇ、ちょっと包丁を取ってきますね」

「師匠の若い子好きも困ったものです」

「師父、弟子は取らないのでは?」 

「おやおや、面白い事を云う子ですね」

 なぜかお互いをライバル視し始めるローガンとロイ。フェイはそれを静かに眺めている。それが何故か一番怖い。

「お待たせしました。研いでないけどいいですよね?」

 ティアは笑顔だ。目からハイライトが消えているが、

「ティア、提案があるんだが?」

「なんでしょう?」

「子供が出来るまで猶予が欲しい」

「まあ、そうですね……。一考の価値はありますか……」

「まだ妊娠の兆候はないんだろ? 今切られたらっ二人の愛の結晶が出来ない」

「そこまで気が回りませんでした」

「切っていいんじゃない? 私は当たっているモノ」

 フェイの爆弾発言にティアが固まる。

「何を根拠に……」

「来ないのよアレが……」

「あっ、私も当たってる気がします」

「ティアはどうだ?」

「来てます……」

「何の話ですか?」

 ロイだけが蚊帳の外だ。

「まあ、いいです。これから作ればいいだけの話です」

「ギルドの仕事は終わったのですか?」

「ああ、終わったけど報酬はミカエルの奥さんに全額渡したよ」

「変な所でお人よしよね……」

「まあ、自分に置きかえたら、ちょっと、な。フェイ、今後酒は禁止だぞ?」

「なんでよ!」

「お腹の子に悪影響だからだよ!」

「私は飲まないから問題なしですね」

「ローガンは激しい運動禁止」

「日課ですよ!」

「万が一があるからダメです」

「そんな、師匠は鬼です……」

「休ませる鬼教官が居てたまるか」

「師父達は一体何お話を……」

「あなたにはまだ早いです!」

「簡単に言うと子作りの話ね」

 フェイの言葉にロイが狼狽する。

「そ、その師父がお望みなら……」

「混ぜっ返すな! ティアから笑顔消えたぞ!」

「泥棒猫の処置はどうしましょう?」

「軒先に寝せたから、家には食事の時しか入れてない!」

「師父は料理が上手です」

「止めろ。お前は死にたいのか?」

 包丁を持ったティアがロイに狙いを定めている。

「男と女が拗れるって大変ね」

「ほぼ、お前のせいだよ!」



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