第48話 二の手要らず

 ティア、フェイ、ローガンが居ない間に来客があった。

「お初にお目にかかります師父。わが師の命により最終の型を覚える為、ロイ推参いたしました」

 まだ若い黒髪の少女だった。これがティアにバレたら息子と泣き別れするかもしれない。

「最終の型? なんだそれは?」

「師父が使う技にございます」

 使う技と聞いて。いつも使っている裏打ちの事だと思い至る。

「見よう見まねで習得したと聞いておりますゆえ、助言を頂きたく」

「……。三日で覚えなかったら帰ってくれよ?」

 どの体勢でも裏打ちが出来るウルルスに師は居ない。だが、心当たりはあった。まだ冒険者をやっていた頃に出会った武術家だ。技を教えてもらえなかったので見よう見まねで使う技を反復して覚えたものだ。

「コツだけ教えるから、出来なかったら諦めろよ」

「コツだけですか?」

「俺はどんな体勢からも打てるんだよ」

「それは……。羨ましい限りです」

 裏打ちは別名二の手要らず。一撃で相手を沈める技だ。ウルルスは身体強化魔法で殺傷能力を極限まで高めている。

「螺旋を意識しろ。確か……。発勁っていうんだっけ?」

「はい。私は勁が上手く練れないのです……」

「それは反復するしかない。見ててやるから一回やってみろ」

「はい」

 足から螺旋を作るように体を動かすリロイ。その様子を見て腰の回転が甘いとウルルスは思った。螺旋の動きが止まってしまっている。

「これは三日で直るんかね……」

「どこが悪かったですか?」

「腰だ腰。足からの螺旋がそこで止まってる。腕力だけで今までの技は出来てたとしても裏打ちは特殊だ。勁が練れなければ一生打てない」

「一度見せてもらっても?」

「まあ、習いに来て見せないで終わらせるのもなんだしな」

 ロイを連れて近場の林に向かう。

「師父は普段何をしているんです?」

「見ての通り山籠もりなんてしてない。職業は暗殺者だ」

「ああ、裏打ちが出来れば、暗殺者は最適な職業ですね」

「……」

 暗殺者を肯定された事がなかったので少し驚く。武術家だからかもしれないが、

「まあ、この木で良いだろう」

 直径一メートルほどの木の前で立ち止まる。

「師父、大き過ぎませんか?」

「いや、倒すのが目的じゃないから、ちなみにロイは身体能力強化魔法は使えないのか?」

「残念ながら……」

「そうか……」

 二の手要らず、本当に良い名だと思う。

 螺旋を意識して体を動かす。もちろん身体強化魔法は使っている。これも修練の賜物だ。

 ドゴンっという音を立てて打撃が決まる。動いていないのだから当たり前だが。

「裏面を見てみろ」

「流石にこの大きさでは……」

 そう言いながら木の裏に回り込むロイ。

「凄い……。打撃跡がある……」

「思ったより小さいな……。加減を間違えたかな?」

 ギギギと云う音を立てて大木が倒れる。表面に立っていたら危なかったかも知れない。

「倒れるとは思わなかったな……」

「凄いです師父」

「中に打撃が当たったかな? 俺もまだまだ、だな」

「浸透勁も使えるのですね! 両方を同時に使うなんて凄いです!」

 自分では分からないが、武術家が言うならそうなんだろう。最近そんな気がしないでも無かったが、ホントに二の手要らずになってしまった。

 

 

 

 

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