第41話 孤児院

 教会が運営する孤児院は王国に無数存在する。一部の貴族や金持ちたちの寄付によって運営されているところもあるのだが、暗黙の了解で修道女たちが躰を売っている場合が多数だ。言ってしまえば無許可の娼館である。娼館は王国から許可が必要だが、教会は免除されている。心の浄化だそうだが、要は性欲が満たされるだけだろう、とウルルスは思っている。

 ミカエルは修道女が産んだ生粋の孤児だ。教会によって母親は誰かは隠されていたが、自分の育った孤児院の面倒を見ていた修道女の誰かであると、酒に酔ったミカエルは言っていた。血の繋がりと云うのか、目星は付いていたが、成人年齢に達して黙って孤児院を卒業したそうだ。その後は鍛冶職人を目指して修行していたのだが、何の因果か気が付けば暗殺者になっていたそうだ。鍛冶職人になっていたよりも稼げるしなと笑っていたのが印象的だった。

「私に黙って教会に行ったら浮気とみなします、いいですね?」

「判定が厳し過ぎやしませんか?」

「まあ、今回は孤児院に寄付に来たところをサクッとやって下さい」

 ミカエルの事を聞かれたので、楽しみにしていた酒を半分以上の飲まれ、正座しながら教会と孤児院の関係を話してみたらこれである。ティアは酒癖が悪いわけではない。独占欲が強すぎるのだ。

「幾つか隠れ家が有るらしいから、何日か空ける事になる」

「教会か孤児院には行かないんですか?」

「行かないよ。はぁ~、家庭持ってたら、どうしよう……」

「私達と条件は一緒じゃないですか。サクッとやりましょう」

「奥さんが超怖い事言ってる。残された妻子はどうすれば……」

「見舞金出せばいいじゃないですか? 同僚として」

「殺した本人から受け取るか、普通?」

「言わなければいいじゃないですか」

「それはそうなんだけど……」

「殺るか殺られるか、私だって気が気で無いんですよ?」

「ターゲットの殺し方なんて酒の席でも教えてもらえないしな……」

「当たり前じゃないですか。馬鹿ですか? ご主人様は」

「ベスを探さなきゃな……」

「他の情報屋じゃ、駄目なんですか?」

「殺し屋の隠れ家なんて他の情報屋が知っているとでも? ティアは馬鹿なのか?」

「その情報屋に逃げられた暗殺者に言われたくないですよ!」

「せめて、フェイの居場所が分かればな……」

「ああ、これを機に温泉に行くって言ってました」

「マイペースな奴だなぁ」

「さあ、ご主人様。温泉に行きましょう!」

「ティアもついて来るのか?」

「置いて行って、ミカエルさんに私が殺されてもいいなら……」

「分かったよ、連れてくよ。俺も温泉入りたいし」

「一分で用意してきます!」

「馬車はもう無いから、おんぶで行くぞ」

「それは揺れそうですね、お酒吐いて来ていいですか?」

「超止めろ、揺らさず行くから」

 金貨二枚分の酒を吐かれたら泣くに泣けない。

「かばん一つでいいですかね?」

「俺の着替えも入れといてくれ、とりあえず二着」

「了解です!」

 ウキウキで準備を始めるティア。それを眺めながら酒を飲む。これで俺が気持ち悪くなればティアも気持ち悪いって事になる。安全運転で走ろう。


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