第24話 夕飯

 ウルルスが家に帰ると庭の外に幾つかの焦げ跡と血の跡があった。

「懲りないなぁ……」

 また賞金首稼ぎがやって来たのだろう。遠距離攻撃のティアと近距離攻撃のローガン。連携が取れなくても、それなりの人数が束になっても敵わないだろう。

「ただいま~」

「お帰りなさい、ご主人様」

「お帰りなさい、師匠」

「なんだ、まだ生きてたの」

 三者三様の言葉が返ってくる。家に帰って来たんだな、と思う。一人拗ねているようだが、

「フェイなんかあったのか?」

「別に、ティアさんの肌がやけにツヤツヤしていて面白くないとかじゃないわよ」

(それ全部言ってません?)

「あ~、すまん」

「いいわよ、社会的に抹殺されたら困るもの」

 そう言いながらフェイはロックのブランデーを飲み干した。

「ご主人様、夕飯食べます? 温め直しますけど……」

「あぁ、頼む。これはお土産な」

「また蒸留酒ですか……」

「今回は大物だったから結構報酬がよくてな」

「誰よ大物って?」

 フェイがソファーから身を乗り出して聞いて来る。

「ペイン・ソール」

「は? 爆弾魔のペイン・ソールがなんで……」

「食事が終わったら話してやるよ」

 ローガンが少し手伝ったと云う鹿肉のワイン煮込みを食べ終える。

「はぁ、ご馳走様。美味しかったよ」

「裸エプロンで作った甲斐がありました」

「なぜ、その工程を見せてくれなかった……」

「師匠、ティアさんは普通の格好で作ってましたよ?」

「なぜバラすんです、ローガンさん」

「私は師匠の味方ですから」

「私だってご主人様の味方ですよ!」

 なに熱くなってんだ? とか思いながら買ってきたウイスキーをグラスに注ぐ。

「いい匂いね、高かったじゃない?」

「値段を言うとティアに殴られるから言わんがな、ティアの為に買ってきたんだ」

「はぁ、私の為ですか」

 ちょこんとウルルスの足の間に座る。自然過ぎて誰もツッコめなかった。

「暗殺者ギルドでいい酒を奢って貰ったからな、グレードは下がるがこれもいい酒だぞ?」

「いただきます」

 コクコクとウイスキーを飲み干してしまう。

「で、なんでペイン・ソールとやり合う羽目になるのよ?」

 事のあらましを説明すると、フェイは呆れ、ローガンは興奮し、ティアは寝た。

「暗殺者ギルドの質が下がっているんじゃないの?」

「まあ、後身が育って無いのも問題なんだけど、な」

「簡単な仕事を回しても増長する。困難な仕事を与えれば返り討ちに合いますもんね」

「俺の戦闘スタイルは真似できないから、後身の育成にも役に立たんしな」

「そういえば、なんで師匠は武器を使わないんです?」

「……、理由は色々あるけど。返り血を浴びずに済むってのが一番の理由かな」

「あ~、洗濯大変ですもんね。私も何着もダメにしました」

 眠ってしまったティアの頭を撫でながら、

「武器を持っていない人間は警戒されないからなぁ……」

「師匠はパッと見、人畜無害に見えますもんね」

「それも暗殺者の資質の内だからな」

「それで町の人から掃除屋さんなんて呼ばれてるのね、納得」

「情報屋ってなんの仕事してるの? って聞かれたフェイ様は狼狽してましたね」

「当たり前でしょ⁉ 聞かれた事ないんだもの!」

 ブランデーをグラスに注ぎ一気にあおる。

「暗殺者のくせに馴染みすぎなのよ!」

「腫れ物扱いされるより良いじゃないかよ」

「私は思いっきり距離を取られたんだけど……」

「……、ドンマイ」

 






 


 


 

  


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