第23話 ペイン・ソール

 ペイン・ソールは元錬金術師だと聞いたことがある。自分の作った失敗作で人を爆死させ、後悔よりも興奮が勝った変態野郎である。

 その事件で錬金術師ギルドから見放され、前の暗殺ギルド長に拾われたと聞いている。拾うなよと言いたいところだが、暗殺の腕は確かだ。周りに被害が及ぶので最凶の暗殺者と呼ばれている。

「本当に助けてくれるんだろうな⁉」

「それが仕事だ、アンタは普通に生活していろ」

「爆弾魔なんて聞いて無いぞ……」

 ブツブツ言いながら部屋をウロウロしている。部屋から出ないのは助かるが、こちらの気が滅入ってくる。

「いっその事、娼館でも行けばいい。アンタの財力なら呼ぶことだって出来るんだろ?」

「暗殺者に狙われて女を抱く馬鹿が居る者か!」

「尻の穴の小さい奴だな……。死ぬなら女ぐらい抱いて置けよ」

「っ……」

 何か暴言を言おうとして口を閉ざす。精神状態はグラスの水をギリギリ注いで表面張力で持っている感じだ。

「アンタも暗殺依頼したんだろ? 自分が狙われる可能性を考えなかったのか?」

「わ、私は真っ当な商売をしている! 狙われる理由なんてない!」

「そうかい」

 その言葉は多分嘘だ。どれだけ、上手く立ち回っても多少人の恨みは買うものだ。

「新しく雇った者は居ないんだよな?」

「あぁ、みんな良く働いてくれているからな……」

「ふむ、なら扱う商品に紛れ込ませるのが一番簡単だな」

「私が扱う商品は奴隷だぞ?」

「新しい奴隷から取り上げた物はないか?」

「……。それなら一纏めにしてあるが……」

 ドオンと離れた場所から爆発音が聞こえた。どうやら奴隷の荷物に紛れ込ませていたらしい。

「おい、どうするんだ!」

「火事が一番怖いが、慌てて逃げるのは得策じゃない。まあ、もうちょっと待て」

 爆発音はどんどんこちらに近づいている。

「うん、これは奴隷たちが手伝ってるな」

「は? 強制のギアスは掛かっているんだぞ!」

 主人を狙わない行動ならギアスは働かない。これは今朝ティアで実証されていることだ。慌てて部屋を飛び出していたら。依頼主の命はもう無かったかもしれない。

「これから、この部屋を吹き飛ばすくらいの大物がくるぞ」

「に、逃げないと!」

 依頼主の首根っこを掴んで椅子に座らせる。

「お前はだいぶ奴隷の扱いが酷かったらしいな、暗殺者を招き入れる位には」

「奴隷は家畜だ。どう扱うが主人の勝手だろうが‼」

 否定はしないが、こいつクズだなと、少し殺意が湧く。

「ゴールはここだ、大人しくしてろ」

「だが、爆弾だぞ‼」

「爆弾の爆風は横と上にしか広がらない。大人しく伏せてろ」

 そして執務室のドアが開いた。ペイン・ソール、初めて見るがどこにでも居そうな優男だった。隣の奴隷らしき少年から爆弾を受け取る。

「こんにちは、そしてさようなら。肥えた豚さん?」

「ひぃぃぃぃ!」

 爆弾が投げられる。商人の前に転がった爆弾を拾い投げ返す。

「な⁉」

 ドゴォンと一際大きな爆音を立てて。爆弾は爆発した。もちろん。ペインも奴隷の少年も吹き飛ばされた。二人の四肢が飛び散り床が血で染められる。

「思ったより、愉快犯だったな」

「お前はこんな屑を守って何の得がある⁉」

「金が貰える」

 淡々と答えてやるとペインは血を吐きながら、

「奴隷の少年に罪は無かった! お前は心が痛まないのか‼」

「いや、共犯だろ。なんで心が痛むのか理解に苦しむ。そもそもお前はその子の名前を知っているのか?」

「…………」

 知らないらしい。まあ、奴隷の名前を覚えようとする奴は稀なんだが。

「苦しいなら、止めを刺すが?」

「このままでいい、アンタ名前は?」

「ウルルス・コル」

 ペインの目が見開いた。

「暗殺者の最高峰……。その手に掛かるなら本望だ」

「いや、お前は他人に迷惑掛けすぎだから、大人しく死んどけよ」

 ペインが動かなくなったのを確認して依頼主に向き直る。

「今回は運が良かったな。俺に殺されない様に精々気を付けることだ」

 返事も出来ず頭を上下に振っている依頼主を見て。屋敷を後にする。屋敷は火の手が上がっていたが、消火活動は報酬に入っていない。

「はぁ、蒸留酒でも買って帰るか」

 暗殺者ギルドで飲んだものよりグレードは下がるが、ウイスキーを買って行こう。なんだか、無性にティアに会いたい気分だった。

 

 

 

 

 


 


 

 

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