第21話 黒い木片
いつも通り顔を洗って。家に戻ると同居人の三人がこちらを睨みつけてきた。
「何、俺なんかした?」
「ええ、ナニをしたんですよね?」
「ナニって何さ?」
高級娼館で貰った黒い木片がテーブルに置かれる。
「これの意味知ってますよね?」
「知らんな」
フェイが深いため息を着く。
「なら、こんなの貰って来ないで下さい」
「何か意味があるのか?」
ウルルスが本当に意味を知らない事が分かり、他の二人の視線が緩む。
「これは王都の高級娼館で常連の証です」
「へぇ、割引でもあるのか?」
「いいえ、割り増しですよ、他よりもいい女を回せっていう意味です」
黒い木片をしげしげ見つめ、不燃耐性などの色々な魔法が掛かっている事に気付く。何も考えず懐に入れたのは失敗だったようだ。
「ふぅん、医院の医者にでもくれてやるか」
「貧乏医者で払える額じゃないんですよ……」
「……、なら副町長にでも賄賂として送るか」
「この町が破綻するのでやめて下さい」
無用の長物だと分かるとウルルスは黒い木片を宙に投げると拳を振るい粉々にした。
「……、勿体ない事しますね」
「俺には必要ない物だと分かったからな」
ティアがニヤニヤというかニヨニヨした表情になったが、とりあえず無視する。
「で、俺の部屋でティアが見つけてフェイに報告でもしたのか?」
「そんなところです」
「高級娼館には仕事で行った。遊ぶ前にターゲットを始末したら、老婆から貰ったんだ」
「へぇ、遊ぶ気だったんですか……」
ティアの雰囲気が極寒のそれに変わる。
「意外と独占欲強いなティア」
「当たり前ですよ!」
噛みつかんばかりの剣幕だ。
「男は種を撒こうという性質があるんだ」
「知りませんよ、そんな性質!」
「ウルルスは女心が分かってませんね」
「まったくです」
フェイもローガンも呆れる。
「ここは嘘でも愛しているのはお前だけと言う場面です」
「嘘は良くないですよ? フェイ様」
ウルルスは自分がすでに詰んでいる事に気付く。これは、何を言っても許さない状況だ。フェイが逃げ道を完全に塞いでしまった。
「フェイ……。分かっててやったな?」
「私に構ってていいの?」
すでにティアの周りに幾つもの攻撃魔法が発動を待つように顕在している。
「あ~、ティア?」
「遺言は決まりましたか? 安心してくださいスグに後を追いますから」
殺す気満々だなぁ、これで本当に高級娼館で遊んでいたら自分はどうなっていたのか、想像するのも恐ろしい。
「なんで強制のギアスが効かないんでしょう?」
ローガンの疑問ももっともで、契約者には逆らえない。攻撃対象に出来ないハズである。
「多分契約者から外れていて、でも魔法範囲は重なるよう微妙な調整をしているんでしょうね」
「なるほど」
ティアの後ろで考察している二人はとりあえず無視する。
「ご主人様、遺言は無しでいいですね?」
「是非も無し、って奴だな」
殺到する攻撃魔法はウルルスに当たる前に霧散していく。
「なんで!」
「攻撃魔法の核を拳で撃ち抜いただけなんだけど」
氷魔法を炎魔法で相殺出来るように、魔法は相殺出来る。普通の拳では怪我をするが、純粋な魔力を纏った拳ならそれは無い。魔法にも核があり、そこを潰されると消滅する。魔力を纏った拳で魔法の核を壊せれば魔法は理論上消滅させられる。
高速で動く魔法核を撃ち抜ける素早さと度胸があれば出来る技なのだが、実際に出来る者はウルルスくらいだろう。
「家の中で攻撃魔法を使う子にはお仕置きが必要だよな?」
「ひっ‼」
攻撃魔法を無効化されればティアは十三歳の小娘にすぎない。フェイとローガンに助けを求めようと視線を向けると露骨に顔を背けられた。
「ご主人様、お、落ち着いて」
「問答無用で攻撃魔法ぶっ放した子に言われたくない」
「ご慈悲を……」
「フェイ、ローガン。町に遊びに行くことをオススメする」
「じゃあ、ローガンちょっと買い物に行きましょうか?」
「え? 見捨てるんですか?」
「ちょっと性的にお仕置きされるだけじゃない」
「……そうですね。結果ご褒美になりそうですし」
「薄情者~~~‼」
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