第20話 姦しい夜

 その夜、フェイは資料室から出てこなかった。忘れる為に紙に書いておく。それがベスとフェイの資料整理のやり方だ。本当に重要なモノは頭の中に入っているので、頭の容量に空きを作る為の作業だそうだ。買っていて欲しいものリストには大量の紙という項目が有った。何に使うか分からなかったが、今フェイは余計な情報を紙に移して忘れようと必死なのだ。

「こんな事していていいんでしょうか?」

「そうは言っても、余計な邪魔が入ると折角買ったカップが、また割れるしな」

 フェイはノックもせずに資料室に入って来た者に容赦がない。熱い紅茶ならまだマシで、インク瓶を投げつけて来た時は洗濯が大変になる。一度それを経験しているティアは手札を見ながら、

「放っとけばいいんですよ。三枚交換で」

「二枚交換で」

 三人でポーカーをしていた。ディーラーはウルルスで、余計なイカサマをしないように厳命されていた。賭けているモノは明日のオムレツ争奪権利である。

「レイズ」「こっちもレイズです」

 二人の手札はティアが役無しのブタ、ローガンはツーペア。ウルルスは負けそうな時ほどティアがチップを上乗せする癖を知っていた。気付かれない様にため息を着く。

「レイズ!」「引きませんレイズ!」

 二人に視線がぶつかり合う。低レベルな勝負にウルルスも正直飽きていた。

「全額レイズ」「望むところです全額レイズします」

「「コール」」

 札を見てティアはテーブルに突っ伏した。ローガンは微妙な顔をしている。役無しで自爆したのだ、勝っても嬉しくないだろう。

「なあ、他のゲームにしないか? 見てて不憫になる」

「不憫とはなんですか!」

「だって、ローガンはポーカーフェイスが使えるけど、ティアは顔に出まくってるぞ? これを不憫と云わなくてなんて言うんだ?」

「ババ抜きしましょう。あれは平和なゲームです」

「そうですね、師匠も参加できますし」

「俺とやっても実力が違うから面白くないと思うぞ?」

 そう言いながらカードを配っていく。

「ビリは罰ゲームなんてどうです?」

「いいですね……、罰ゲームを書いた紙を引く箱が欲しいところです」

「それは、次回用意しましょう」

 カードを配り終わり、ペアになったカードを捨てていく。

「はい、残り一枚」

 ウルルスは一枚を残してペアになってしまい。順番次第では一抜け確定である。

「まだ五枚も……」「どんなイカサマですか……」

 ローガンがティアのカードを引き、ババを引いた。ティアはしたり顔である。ポーカーフェイスのローガンからウルルスがカードを引くと、

「はい、上り」「は?」「へ?」

 ウルルスの驚異の一上がりにティアとローガンは間抜けな声を出す。

「な? つまんなかっただろ?」

「そういう次元じゃないから!」

「神運過ぎます!」

「うるさいわね、作業に集中出来ないじゃない」

 飲み物でも取りに来たのかダイニングキッチンにやって来たフェイが大声を出した二人を窘める。

「フェイさん、ご主人様がイカサマするんです!」

「師匠が神運過ぎるんです!」

 テーブルに広がったカードを見てフェイは納得したように頷く。

「カジノを出禁になった人にカード勝負しようなんて、あなた達正気?」

「「イカサマ抜きなら勝てるかと!」」

「無理よ、存在自体がイカサマみたいな人なのよ? 今度はブラックジャックでもしましょ? もちろんディーラーはウルルスで」

「俺の意見は無視ですか……」

 ディーラーのウルルスが一人勝ちして文句を言われるのはもう少し後の事である。



 

  


 

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