第19話 侵入
暗殺者ギルドでいつもの合言葉を言うと奥に個室に案内された。銅貨三枚を払い。隠し扉からギルド長の元に向かう。
「よう、カリア」
「ここではギルド長と呼んで下さい、ウルルス」
「手厳しいな、ギルド長は」
「今日は全ての情報ですね?」
「ああ、頼む」
「相手はジェイソン。よく立ち寄る場所は王都の高級娼館。似顔絵はこれです」
「これ、下手すると鷹案件じゃないか?」
「えぇ、娼館への侵入は必要経費として計上してもらって構いません」
「太っ腹だな……。この話なにか裏があるんじゃないか?」
「……ウルルスに隠し事は出来ませんね」
「ジェイソンは魔法士とかか?」
「……。そうです、数人もの暗殺者が返り討ちに合いました」
「そうか、それはきついなぁ」
ウルルスはくすんだ銀髪を掻きまわす。
「魔法士殺しのセリフとは思えませんね」
「まあ、室内戦闘は得意なんだけどな、周りに被害が及ぶかもしれん」
「それも折り込み済みの依頼です」
「……依頼主に焦りが見えるな」
「そうですね、お願いできますか?」
「高級娼館には行ったことが無いからな……。普通の娼館とは違うのか?」
「私が知るはず無いでしょう? 馬鹿なんですかウルルスは?」
「悪い悪い。しかし、王都に着くのが明日の夕方として、まだ大分時間があるな……」
「うちの酒場で飲んでればいいじゃないですか」
「嫌だね」
「うちほど良心的な酒場も滅多にないと思いますが?」
「なんで仕事場で酒代を払わんといけないんだ?」
「うちの夕ご飯が一品増えます」
「意外でもないけど庶民的な事で。王都に向かうとするよ……、王都の酒場も良心的だしな」
「見えます。酒場でぼったくられて、用心棒を半殺しにするウルルスの姿が見えますよ」
「嫌な事言うなよ……」
◆◆
王都は広い。王国の片隅で無駄に広い田舎のウルルスの住む町が三つ入ってもまだ余るほどだ。東西南北に走る表道りは綺麗でゴミ一つ落ちていないが、路地を一本入ると様相は一変する。細い路地を奥に進むほど汚くなる。
治安も表通りを外れるほど悪くなる。
この王都で迷子になるイコール犯罪に巻き込まれる。王都に暮らす者の常識なのだが、騎士団や警察機構はあまり役に立っていない。路地に入る方が悪い、そういう認識なのだ。
高級娼館は路地を一本入った、入り組んだ場所にあった。知る人ぞ知る場所なのだろう。
普通の娼館より豪奢な外装だ。少しウキウキしながら建物の中に入る。ここで遊んでも経費はギルド持ちである。
羽を伸ばすわけではないが、高級娼館で遊んでみたいのも事実だ。どこで受付をするんだろうとキョロキョロしていると、
「おい! 邪魔だ!」
不覚にも後ろから怒鳴られた。
「すみません」
反射的に謝ったが、顔を見て思いっきり落胆する。
ターゲットのジェイソンがそこに居た。控え目な化粧だが綺麗な女性の肩に腕を回している。これが高級娼婦かぁ、と納得する。
「聞いてんのか!」
「え?」
左耳に手を当て、よく聞こえるようにとジェスチャーしてみる。
「こいつ! 死んどけ!」
ジェイソンが攻撃魔法を撃つより早く、右拳で胸を打ち抜く。隣の女性が視認出来きないが、ジェイソンは血を吐いて後ろに倒れた。
「あらら、医者を呼ばないと……」
「だ、誰かぁぁぁぁぁ!」
そう言って女性は娼館の奥へ入っていった。突然の事でパニックになり人を呼びに
入ったのだろう。
「これで高級娼館とは一生、縁がないんだろうなぁ……」
「これに懲りず、どうぞご贔屓に……」
奥から現れた老婆はそう言ってウルルスの黒い木片を渡してきた。
「これは?」
「お近付きの印です。どうぞお納めください」
「分かりました」
貰えるものは性病以外は貰う主義のウルルスは木片を懐に仕舞うと、高級娼館を後にした。
◆◆
とりあえず遊んで無いから、報酬を弾んでもらえるようギルド長と交渉するつもりだ。カリアなら押せば何とかなるはずだ、と期待をもって王都を後にする。
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