第18話 賑やかな朝

 家に着くとローガンは肩で息をしていた。

 さっきの朝飯抜きはただの冗談なのだが、身体が資本の護衛に飯を食わせない訳にはいかない。腹が減って力が出ない護衛なんて聞いた事がない。


「し、師匠。せめて、パンだけでも……」


「安心しろ。さっきのは冗談だ」


「よ、良かった……」


(あれ? 本気で泣いてる?)


「ウルルス! 話があるわ!」


「朝から元気だな。フェイは……」


「ティアさんに手を出して、私に手を出さない理由をハッキリさせましょう!」


「お前の師匠のベスにフェイに手を出したら社会的に抹殺するって言われているからだが?」


「く~、お師匠様。こればっかりは恨みます~‼」


「というか何故バレた?」


「ティアさんが寝ぼけながらあなたの部屋に入っていったからよ!」


「あ~、よく二度寝するんだよな」


「……。朝に弱い奴隷ってどうなの?」


「怒ろうが、鞭で叩こうが改善しないんだから、しょうがないだろ」


 ウルルスは実際そのどちらもしたことは無いのだが、


「体質かしら、ニワトリの鳴き声でも全然起きて来ないし」


「大体、朝食の匂いで起きてくるぞ?」


「その朝食は何かしら? パンとくず野菜のスープでも文句は言わないけれど」


「じゃあ、卵を探してくれるか? それで朝食がグレードアップする」


「仕方ないわね、ローガンも探して頂戴」


「はい、承知しました」


「温めているやつは取るなよ、ニワトリに突かれるぞ」



 卵は二つしか手に入らなかった。これはまたカードを引いてもらうしかないな、とオムレツを作り始める。


「……。おはようございます……」


「おはよう、ティア。とりあえず、顔を洗って来い」


「……、頭がガンガンします」


「肉の取り分が少ないからって、ヤケ酒するからだよ……」


「……、後悔はしていません」


「少しは酒量を考えろよ……」


「……、美味しいウイスキーでした。次も同じ位のクオリティーをお願いします」


「金が幾らあっても足りねえよ……」


「医者と暗殺者は暇な程いいって奴ですか……」


「まあ、そういうことだ」


 手早くオムレツを作るとテーブルの上に置いた。今は誰のモノでもない。


「……。何その格言」


「一理ありますねぇ」


 フェイとローガンが席に着き、白パンをちぎって口に入れている。教会で習う朝の祈りもこの家庭では必要なかった。誰も敬虔な信者ではなかったのだ。


 ティアが戻って来たのを見計らってカードを配る。ルールは昨日と同じだ。見事オムレツを手にしたのはティアとフェイだった。


「……、美味しい」


「今日も美味しいです、ご主人様」


 朝食が終わると、コツコツと窓が突かれる。窓を開けると鳩が足を差しだしてくる。暗殺者ギルドの連絡だ。


「依頼ですか?」


「なんか最近多い気がするな……。まあ、助かるんだが」


 鳩の足に括りつけられた手紙を読む。今回も平常運転である。ただし、暗殺者ギルドに必ず顔を出すようにと明言されている。


「蒸留酒、期待してます!」


 思わずため息が出る。酒の味を覚えさせるんじゃなかったと、思いながら、


「ローガン、ティア。フェイの護衛は任せたぞ」


「お任せください!」


「適当にあしらっておきます」


「じゃ、行ってくる」













   

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