第17話 朝の日課

 着替えたローガンと一緒に朝食のパンを買いに行く。

 付いていくと聞かなかったのだ。ティアが朝が弱くて朝食は俺の仕事だと伝えるとひどく驚いていた。奴隷の代わりに買い物に行くご主人様は、やはり世間にはいないらしい。


「師匠は奴隷をどう思っているのですか?」


「端的に言えば財産だろ、それをどう扱うかは個人の自由だと思うが」


「はぁ、財産ですか……」


「ローガンは奴隷をどう思う?」


「そうですね。強いて言えば、賃金の要らない労働力、でしょうか?」


「そうだな。犯罪奴隷は死亡率の高い鉱山や治水工事に使われる。使い潰しの出来る労働力というのが正しい認識だと、俺も思う」


「なら、なぜ?」


「ん? 単純に喜んで欲しいからだが?」


「……、師匠は変わってます」


「はは、自覚してる」

 

 通い慣れたパン屋に着くと女主人に声を掛けられた。


「ウルルスさん、今日も早いですね」


「おはようございます。こちらは新しく同居人になったローガンです」


「ああ、噂になってますよ。ウルルスさんの所に訳ありの同居人が増えたって」


「情報屋とその護衛ですよ、訳ありってわけじゃないです」


「情報屋……、何のお仕事です? 新聞屋さんとは違うんですか?」


「さあ、俺もよくは知りません」


「はあ、そうなんですか。それで、パンは何個にします?」


「多めに、十個で」


「毎度、ありがとうございます」


「ああ、試作品の感想はもっとナッツを入れた方が美味しいと思う、だそうです」


「む~、これ以上は採算が取れなくなるんですよね……」


「暇な時にでも集めておきますよ」


「いいんですか! 私に出来る事があるなら何でも言って下さいね!」


「よく眠って、お仕事頑張ってください」


「はい! 昼寝は得意です!」


 勘定を払って帰路を急ぐ。ローガンは走って追ってきた。早めに歩いているだけなのだが、


「師匠、早いです!」


「ん? 悪い悪い」


「師匠は毎日こんな事を?」


「仕事がない時は大抵な、そんなに遠く無いだろ?」


「遠いですよ」


「見解の相違って奴だな、俺は王都まで半日もあれば着くぞ?」


「化け物ですね……」


「暗殺者がゆったり馬車に揺られて王都まで行くのは、なんか違うだろ?」


「そうかもしれませんが……」


「ローガンは身体能力強化出来ないのか?」


「あまり魔法の素養が無くて……」


「思い込みかもしれんぞ? ガルシアは身体能力強化は出来ていたからな」


「なんか、ズルをしている気がして……」


「それで護衛対象を危険な目に合わせる気か?」


「……、教えて下さい。師匠」


「構わんよ、簡単じゃないけど、な」


 身体能力魔法を使うと初めはまず自分の今までの動きが出来なくなる人が大半だ。基礎がしっかりしている者ほどバランスを取ろうとして破綻する。


「身体能力強化しながら、今までの型が出来るようになれば、とりあえず一人前だ」


「はい、頑張ります!」


「という事で、今日中に身体強化魔法を覚えてもらう」


「す、スパルタですね……」


「時間は有限だからな、ほら使ってみろ」


「今ですか⁉」


「そうだよ、イメージは分かるか?」


「な、なんとなく」


「ここから家までダッシュ、息切れしてたら失格、朝飯抜きだ」


「お、鬼ぃぃぃぃ!」


 その言葉を残してローガンは走っていった。


「これは、面白い玩具を見つけたかもしれん……」

 


 


 

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