第16話 ローガン
歓迎会は概ね盛況で終わった。乞食鶏は大変好評で、終いには争奪戦が勃発した。ウルルスは辞退したが、肉の取り分はフェイが持っていたトランプで誰がカードが一番強いカードが引けるかで決める事になった。エースが一番強くて2が一番弱いルールだ。ウルルスはカードに不正がない事を確認して、広げたカードを三人に引かせた。勝者はキングを引いたローガンで、2を引いたビリはティアだった。悔しさあまり、地団駄を踏んでいた。なんでイカサマしなかったのかと怒られた。
久しぶりにベットで寝たのでニワトリが鳴くより目が覚めてしまった。いつの間にかティアがベットに潜り込んでいることも、今日はなかった。
顔を洗うために外に出ると先に起きていた者が居た。
剣の素振りをしているローガンだ。
「よう、早いな」
「おはようございます、師匠」
「゙……。止めないか、それ」
ウルルスに負けて以来、ローガンは師匠と呼んでくる。酒のお酌もしてくるし、悪い気はしないが、教える事が無い。ウルルスの体術とローガンの剣術は想定から違う。接近戦で相手を倒すウルルスと、剣で鎧ごと切ろうとするローガンの剣術では体運びも違う。
「そもそも、教える事なんて無いぞ」
「いえ、師匠は一太刀で流派を言い当てました」
「それは、たまたまだって」
手をひらひらさせ、古井戸に向かう。ローガンは剣を鞘に納めて着いて来る。
「知り合いにランドルフ古流剣術の使い手が居ただけだ、その練習風景を覚えていた。本当にただそれだけだ」
「信じられません!」
やけに噛みついて来るなあ、と思いながら顔を洗う。昨日は酒を薄めていたからか、二日酔いにはなっていない。
「俺は特定の師を持ったことは無いし、体術だってまあ、ほぼ我流だ」
「そうかもしれませんが、ランドルフ古流剣術の使い手はほとんど居ません」
「つまり、俺の知り合いがお前の身内の者だったかもしれない、と?」
「……。可能性ではありますが」
「それは、残念ながら無いな。俺がその知り合いに出会ったのは、俺がまだ冒険者をしていた頃だ」
「名前は、なんと」
「ガルシア・デェート。よく名前でからかわれていたな」
「……。そうですか……」
ローガンの雰囲気が悲壮なもの変わる。どうやら知り合いだったらしい。
「……、その人は、私の父親です」
「…………」
ガルシアは既に故人だ。何とも言えない。
「剣は叔父に習いました。父親の事は冒険者になると言って家を出たくらいしか」
なんだろう、子供が出来た事で金が必要になって、冒険者になったのだろうか、ウルルスには想像を巡らせる事しか出来ない。
「父は、どんな人でしたか?」
「ん~、真面目で飲みにも行かず、ずっと金を貯めてた印象だな……」
それが原因でならず者に襲われたんだが、それは言わなくて良いだろう。
「そう、ですか……」
「……、汗を冷やすと風邪を引く。戻るぞ」
「はい」
とぼとぼと着いて来る。迷子になった仔犬みたいだな、と思うもなんと声を掛けてやればいいのか分からない。
「……、師匠」
「ん?」
「ありがとうございます」
なんでお礼を言われたか分からない。ウルルスが困惑していると、
「父の太刀筋を覚えていてくれて……」
「礼を言われる覚えはない、お前の父親はいい奴だった。それだけだ」
「……、はい」
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