第15話 歓迎会

 家具を運び終えた男たちは歓迎会に混ざりたかったようだが、フェイが多めに手間賃を払うことで意気揚々と帰って行った。

 一流の情報屋は懐事情が違う。男たちの浮かれ具合に、これから娼館にでも向かうのではないだろうか、そう邪推してしまう。


「わざわざ、私たちの為に歓迎会を開いて下さって、ありがとう」


「ありがとうございます」


 フェイはロックのブランデー、ローガンは護衛中であるからと酒を固辞して果実水だ。真面目だなぁ、とローガンの評価を上げる。

 

 ウルルスとティアはウイスキーの水割りだ。ウルルスが珍しく水で割ったのは酔いが遅くするためだ、主催者が酔い潰れてしまっては格好がつかない。ティアは果実水に全く興味を示さなかった。悪い傾向であるが、歓迎会であるし、今日は何も言うまい。


「気楽に行こう。これから同じ屋根の下で暮らすんだしな」


「そうですね、今日は無礼講で」


「お前が言うなよ」


 こういう時、主催者から長い話があるのが定番だが、ティアが無礼講と云ってしまった手前、無しでいいだろう。


「それでは皆さん」


「「「「乾杯」」」」」


 四人でグラスを合わせる。みんな一気にグラスの飲み物を飲み干す。


「ふう、このお酒も結構いけるわね」


「フェイ様、無礼講とはいえ余り飲みすぎるのは……」


「大丈夫よぅ、ここには伝説の暗殺者と元冒険者も居るんだから」


 その言葉にローガンはギョとする。フェイの奴、素性隠して話を進めたな。知人の家に厄介になる位に言ったに違いない。思わずため息が漏れる。


「では、あなたが、あのウルルス……。コル……」


「まあ、伝説なんて大げさに言われているが、ただの暗殺者だよ」


「ですが、ウルルス・コルの武勇は数知れず、一説には前国王も手に掛けたと」


「まあ、それは否定しないけど」


 その言葉にローガンは腰の剣を抜き、周りに緊張が走る。


「その武勇、本物か、試してみたい」


 あれ、こいつもしかして酔ってる? と、隣のティアを見ると顔を背けた。こっそりブランデーでも入れたんだろう。よく見るとローガンの顔は少し赤くなっている。お酒に弱いのかもしれない。


「歓迎会だぞ、剣をしまえって」


「いいえ、この機会を逃すわけには!」


 そう言いうや神速の剣を振り下ろした。紙一重で避けたが、コイツ酔うと体のキレが良くなるタイプか。


「その太刀筋には見覚えがある。ランドルフ古流剣術だな」


「ご明察!」


 二の太刀、三の太刀を目視するより早く躱す。なんで、こうなっただろと頭の隅で考えながら、剣を振り切ったローガンの腕を掴むと足を払い、投げる。相手は女性だ、手加減しよう。受け身が取りやすいように背中から地面にぶつける。

 それでも反応できなかったのか、受け身も取れず体を打ち付けられて、手から剣が離れた。肺から強制的に空気が押し出されて咳き込んでいる。少しやり過ぎたかもしれない。自信を無くさないといいのだが。


「あらら、勝負ありね」


「ティア、あとで話がある。覚悟しろ」


「悪気はありました。反省してます」


「飲み物への異物混入は立派な犯罪だからな。大丈夫か、ローガン」


「…………」


 放心している。練り上げた自分の剣術が通用しなかったのがショックだったのだろう、かといって自分がケガをする訳にもいかない。


「酔いと一緒に慢心も消えました……」


 ローガンは寝ころんだまま呟く。


「自分が慢心していたと気付けるなら、もっと強くなれるさ」


「そうでしょうか?」


「ああ、保証するよ」


 手を差し伸べると強く握って、立ち上がった。


「そうですね、師匠も出来ましたし」


「……いや、待てなんでそうなる」

 




 

 

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