第14話 乞食鶏

 フェイたちがウルルスの家に到着したのは、ウルルスの導き出した予想よりも少し早かった。馬車を乗り継いで来たらしく、荷物は少ない。

 町からベットを運ぶには新たに馬車を借りないといけない。ウルルスが身体能力魔法では持ち上げる事は出来ても運ぶには些か大きすぎた。ゆっくりでいいなら可能だが、ベットを二つだから四往復することになる。馬車を利用した方が明らかに楽だった。自分の財布が痛む訳でも無いので、気楽なものだ。


 意外な事にフェイの護衛ローガンは男装した女性だった。一目でウルルスは見抜いたが、ティアは気付いていないようだ。何日目で気付くかな、とフェイとひっそりと賭けをするつもりでいる。


 これで、ウルルスの家は女性が三人になった。傍から見れば羨ましい状態かもしれないが、これは神経が休まらないのでは? と、一人になる方法をなんとか考えようと密かに決意する。


「ご主人様、乞食鶏を今こそ!」


「すでに一匹、土に埋めてある。尊い犠牲だった」


 オス鶏ではなく、歳が一番古いメスが犠牲になった。初めて飼った、つがいの一匹だ、少しだけしんみりしてしまう。


「どこに埋めたんです? 焚き火をしなくては!」


「やけに興奮してるな。メインだからフェイたちが帰って来てからでいいだろ」


「それだと、酔ってて味が分からなくなる可能性があります」


「飲む気満々だな、安心しろ酔ってても忘れられない味だから」


「た、昂ってきたぁ!」


 やけにテンションの高いティアを放って置いて、果実水や一口で食べられる料理を外に持ち出したテーブルに並べていく。

 ほとんどが今日の為に町の料理屋から教えてもらったものだ。それなりに対価は払ったが最初から節約して同居人にがっかりされるのも心外だ。

 

 馬車でフェイたちが戻ってきた。ベットを運ぶのに四人の男たちが馬車に連れ立って歩いている。

 ベットを家に入れる位ならウルルス一人でも造作もないんだが、たぶん町の人を信用していると云う意思表示であろうと推測する。


「ご苦労様、もうひと踏ん張りお願いできるかしら?

「「「「よろこんで」」」」」


 美人って得だよな、そんなことを思ってしまう。護衛のローガンが指揮を取って男たちが馬車からベット下ろし家に運んでいく。まだ、ベット他にも色々家具が積んである。下手に声を掛けて藪をつついて蛇を出すのは止めようと焚き火の準備を始める事にする。丸い石を目印にしてある。もし蹴られても場所は記憶しているから問題ないのだが、念の為である。

 少し掘って土が周りの土よりも柔らかい事を確認してから焚き火を始めた。


「ちょっとウルルス、ドレスに匂いが付くから焚き火を止めて頂戴」


「風下に居なきゃいいだろ。悪いが、これも料理の一種なんだ」


「は?」


 乞食鶏の説明をすると納得したように頷いた。


「それはある意味画期的な調理法ね」


「だろ、むかし家に出入りしてた庭師から聞いた調理法だ」


「物知りな庭師さんね」


「まあ、俺が良家の生まれでも世間とさほどズレずに生活出来たのはその庭師のおかげだな、家じゃ俺とろくに話してくれる奴は少なかったし」


「そのせいで性根が腐ったのね、可哀そう」


「……。なんだろう思い出を汚された気分だ」


「腐っているのは本当でしょ?」


「否定しないが、肯定もしない」


 焚き火の炎は強すぎず弱すぎず、長く燃やせるようにするのがコツだ。


「あと、ティアさん、雰囲気変わった?」


「あれぐらいの年頃はちょっとした事で変わるもんだろ」


「そういうものかしら?」


「そういうもんだ」

 


 

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