第13話 大掃除

 ウルルスが買った家は古いが庭が広く、平屋だが部屋が多かった。玄関からすぐのダイニングキッチンと寝室、食物貯蔵庫と地下の酒蔵しか使っていないが、それはそれしか使う必要が無いからだ。部屋が多い分、掃除も面倒である。ティアもウルルスが留守中は使う部屋しか掃除してなかった。しかし、人が増えるとなると、そうはいかない。

 まだ、フェイがいつ来るか日取りが決まっている訳ではないが、家中の大掃除が始まった。前の住人が残したモノはとりあえず使って無い部屋に全て持ち込み、物置にした。フェイは情報屋である。資料部屋や護衛が使う部屋も用意しなければならなかった。しかし、家賃として定期収入があるのはありがたい話だ。大工の棟梁の時以来、医院に臨時の回復術士として契約していたのだが、毎回呼ばれるとは限らない。風邪や骨折の前には無力である。元々余りお金に対して無頓着である二人がやっていけたのは、半自給自足の生活で、ウルルスの仕事が入れば、半分近くが酒に消えるという。悪循環に慣れていたせいでもある。

「これで、やっと普通の生活が出来ます」

「その普通の生活とやらがしたいなら、こっそり酒を飲むのをやめろ」

「何のことだか、さっぱりです」

 いい笑顔で白を切るティアに、ウルルスは深いため息つく。

「俺が酒の量を少なくしたって、お前が飲んだら意味無いだろ」

「お酒の味を教えた方が悪いと思います!」

「開き直ってんじゃねえよ、まったく」

 普通の生活が何なのかウルルスはいまいちピンと来ていなかった。そもそも職業から普通ではない、そもそも普通の生活ってなんだ? という哲学めいてもいない事を考えながら、床を拭いて汚れた水を捨てに行く。

「ウルルスさん、お手紙です」

「ご苦労様です」

 定住しているので郵便物は普通に届く、これが普通? 首を傾げながら手紙の差出人を見る。ローガン、知らない名前であるが、フェイの偽名だろうと手紙を読むとそれはフェイの護衛の人物からだった。

 持って来るモノのリストと購入していて欲しい物が書いてある。ベットなどは自分で町で選ぶらしい。輸送費がだいぶ掛かると前の家からは持ってこないらしい。

 購入していて欲しい物には酒も書いてあった。フェイらしいと言えば実にフェイらしい。

「これ、本当に揃えるとなると幾らになるんだ?」

 頭の中で計算して、冗句の類だな、と無視することにした。

「フェイさんからですか?」

「ああ、冗談に磨きがかかって笑える」

「はぁ…、それでいつ頃くるんですか?」

「郵便の消印から逆算して、多分遅くても明後日の昼頃じゃないか?」

「そうですか……二日、はあるんですね……」

「その笑顔はなんだ、何を期待してる」

「嫌ですねぇ、好き合う男女がお邪魔虫の来る前にすることなんて、一つでしょ?」

「ティアは肉食系だよな」

「覚悟を決めて下さい。私はいつでもウエルカムです!」

「悲しいぐらいムードが無いなぁ……」

 

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