第10話 二日酔い
「うぅ、気持ち悪い……」
いつベットに入ったか覚えていない。ベットサイドに置かれていたグラスの水を一気に飲み干した。
「コケコケコッコー」
「頭に響きます……」
乞食鶏にして食ってやろうかと思いながら寝室を出た。服装は昨日のままだ。寝間着にも着替えずにベットにはいったのだろうか、寝ぐせも付いている、レディーにあるまじき姿だと思う。
「どうだ? 初めての二日酔いは?」
朝食を用意しているウルススの笑顔が無性に腹が立つ。
「着替えさせずにベットに運んだのは謝る。でも、ブランデーを三分の一飲んだんだ、それでおあいこって事にしてくれ」
「三分の一も飲んだんですか、記憶にないです……」
「だろうな、フェイの制止も聞かずにストレートで飲んでたぞ」
「もうお酒は飲みません……」
「酒飲んだ奴は大抵そう言うよ。一つ勉強になったな」
「……フェイさんはどうしたんですか?」
「夜通し飲んで、早朝に帰ったよ」
化け物だ、と思った自分はこんなにも気持ちが悪いのに。
「フェイは俺より酒が強いからな、お陰でいい話が聞けたんだが、一つ問題があってな……」
「なんですか?」
「この町に拠点を移すそうだ……」
「それのどこのに問題が?」
「……その拠点が、この家ってことだ」
一瞬頭が真っ白になった。自分たちの生活に部外者が入ってくる。しかも自立していてスタイルが良くてウルススに好意を持った女性が、だ。二日酔いの頭にその事がじわじわとしみ込んで来た。しかも、自分にはその拒否権がない。
「どうする?」
「それは、ご主人様が決める事です、から……」
思ったよりも乾いた声が出た。いつか来る事が思ったよりも早く訪れた。それだけの事だ……。
「俺は最後まで抵抗したんだが、すまん……」
「ご主人様が、謝る事じゃないです」
「一度決めると諦める奴じゃないんだ昔から、行動力もずば抜けてるしな」
「そうなんですね……」
「大丈夫か、顔が真っ青だぞ」
「大丈夫です、二日酔いのせいですよ、顏を洗ってきます……」
とてもじゃないがウルルスの顔が見てられなかった。
古井戸から水を汲み、顏を洗う。胸が痛い、涙がとめどなく溢れてくる。気付かなかった、こんなにも自分の中でウルルスの存在が大きくなっていたなんて、
「何もかも、遅すぎました……」
この気持ちに気付くのも、それを口に出すのも……。
「あぁ、なんで、なんで……」
なんで自分は奴隷なんだろう、でも奴隷に落ちなければウルルスには出会えなかった。出会えなかったら今よりも悲惨な人生が待っていた。
「あまり遅くなると、ご主人様が心配してしまいますね……」
気合を入れる為に両頬を叩き、乱暴に涙を拭う。
「まだ、時間はあります。いえ、作ればいいんです」
この気持ちをこのまま枯らせてしまうには、まだ早い。
「何をすればいいか分かりませんが、このまま素直に敗北を認める訳には行きません! えぇ、絶対にです!」
自分の気持ちに素直になろう、奴隷という身分には過ぎた感情かもしれない。でも、好きなものは好きなのだ。
「覚悟して下さいねご主人様、私はもう止まりませんよ!」
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