第29話
担任教師へブチギレている委員長に、ひとまずは落ち着いてもらった後、二人で用意されている用紙に名前などの必要事項を記入する。
「意気込みって何よ」
「まぁ……体育祭を盛り上げるために、どんな事に気合を入れてやっていきたいですか?っていうことじゃないの?」
ボチボチ大きな枠が設けられており、意気込みを書けとなっている。
名前欄の枠の大きさと比べると、そこそこ書いてくれという意志が伝わってくる。
「意気込みも何も……これしかないでしょうよ」
委員長はそんな言葉を、自習中の静かな教室内で聞こえないように漏らしながら、ペンを走らせる。
委員長が書いた意気込みはこちら。
「粛々と必要な行動を取るのみ……。なるほどね」
まぁ確かにそれが一番大事なんだろうけど。
多分、こういう言葉を必要として書いてくれと設けられているわけではないと思う。
まだ委員長、怒りが収まってないな。
いっつもの明るくほんわか委員長が、こんな固いコメントなのも俺からすれば、面白いっちゃ面白いけど。
でもどうせあの担任が、校閲みたいな感じで確認して、これは微妙だから書きなおせとか言い出しそうだ。
「確かにこの言葉通りではあるんだけど、何ていうか……。みんなが楽しくやれるように頑張りますとか陳腐以下の言葉でもいいから、そうしておこ?」
「ん、私の書いたやつまずかった?」
「悪くはないけど、担任に見せて何だかんだ言われてやり直しさせられることを考えたら、ありきたりの言葉でまとめておく方が間違いないかなって」
「なるほどね! ごめんね、勝手にイライラしてるだけなのに、そこまで考えてくれて」
「いやいや、前に散々仕事委員長任せって話は聞いてたけど、それが今日よく分かったから」
「本当にありがたい……!」
少し話すと、いつも通りのニコニコ委員長が帰ってくるので、安心した。
この後は、円滑に必要事項を書き終えた。
そろそろ自分の席に戻って、自習をすることを考え始めた時、委員長が一枚紙を取り出して何やら書き始めた。
もうちょい筆談で話でもしようぜ?
そんなことを提案されたので、俺もペンを持ってOKと承諾した。
この後、自分達の席に戻らずに筆談で他愛もない話を続けた。
筆談なら、静かな教室でもバレて浮く事もない――。
「二人も記入終わったら、さっさと自分の席に戻って自習。そんなに書くのに時間かかるようなことないやろ」
「クッソが……!」
平和に終わることが出来そうだったのに、最後の最後まで邪魔された。
平和な委員長から、修羅の委員長に変わってしまった。
お互いにため息をつきながら、自分の席に戻ることになってしまった。
そのまま大した集中をすることもなく、六時間目を終えて放課後になり、多くの生徒が怨嗟の声を出しながら補講場所の教室へと向かっていった。
そんな中、俺も凛ちゃんが待ついつもの場所に向かう。
自分のクラスの小テストの状況を見ると、凛ちゃんの小テストの出来がどうだったかも不安になる。
彼女がよく頑張っているのが分かっているからこそ、信頼していないわけではない。
今日の俺達のように、普通に難しい問題でうまくいかなかった場合もあり得る。
どういう形でも、うまく行かないと凛ちゃんはすごく落ち込んでしまうだろうし。
そんな不安もあって、足早に社会科資料室に向かった。
到着すると、いつも通り凛ちゃんが先に来ており、解錠して中に入っていた。
「今日もお疲れ様です」
「凛ちゃんもお疲れ様」
いつもと変わらない笑顔と労いの言葉。
今日は一段と色々あったが、これでとても癒やされる。
「お兄さんに、色々と見せたいものがあります」
「何かな?」
「小テストの結果になります! 色んな科目やりましたけど、こちらに全部あります!」
「どれどれ……。おお、よく出来てるってか全部合ってる」
「はい! パーフェクト勝利です!」
凛ちゃんが俺に見せてくれた小テストは、どれも満点だった。
問題を見ると、簡単なものもあるが、そこそこ難しい問題も含まれており、これだけミスなく全て正解出来ているのは、とてもすごい。
「ミスなく出来ててすごい! 本当に頑張ったね」
「はい! お兄さんにあれだけサポートしてもらったので、キチンと成果を出せて良かったです」
「後はこのまま定期テストに向けて、勉強を継続して頑張っていけば、大丈夫だからね」
「はい」
「じゃ小テストも終わったようだし、また課題少しずつでいいから進めようか」
俺がそう言うと凛ちゃんは頷いて、教材を取り出し始める。
小テストですでに、定期テストの主要な範囲は完璧に抑えて、課題の進み方も順調。
凛ちゃんを完璧にする計画は、狂いなく進んでいっている。
これには妹も、ニッコリに間違いない。
「小テストとかで疲れてるだろうし、ゆっくり目でものんびりしながら少しずつでいいかもね」
「そうですか? では、一つお話聞いてもらってもいいですか?」
「うん、いいよ。何かあった?」
「お兄さん、体育祭運営委員やるって言ってましたよね?」
「うん。今日ちょうど決める話し合いしたんだけど、誰も立候補しないから正式に俺で決定したよ」
「そうだったのですね。実は私も、体育祭運営委員に立候補してみようかなと思ったりしてまして」「そうなの?」
「はい。課題とか、お兄さんのおかげでかなりの余裕を持って進んでますし、何よりお兄さんが居ないと、この時間に一人じゃあんまり集中して勉強出来なさそうですし」
「積極的なのはいいけど、本格的に活動するときには相当暑くなってくるから、大変かもしれないよ? 大丈夫?」
「そこは……お兄さんに甘えるという事で」
「なるほど、それなら大丈夫だ。一緒に役員やれば、活動のある日と無い日の共有もしやすいからいいかもしれないし」
「ですです。なので、話し合いある時に立候補してみようと! まぁ同じように立候補する人がいたりしたら、ダメかもですけど」
「まぁやれるようだったら、一緒にやってみよう」
凛ちゃんは、ニコッと嬉しそうに笑った。
体育祭運営委員として、凛ちゃんがクラスを鼓舞したらそのクラスめちゃくちゃ強くなりそう。
まぁうちも、委員長が鼓舞すればそうなるかもしれないけど、今の状況だと無理……かな?
この期間ずっと真顔で委員長は、任務を遂行するのではないかとすらちょっと思い始めているし。
「何か色々聞いたんですよ。競技ルールを考えたものが、プログラムに入れられたりするって!」
「そうそう、色々あるよ」
単純に興味を持って、楽しみにしている凛ちゃんの姿が純粋でとても良い。
二年生にもなると、部活やら補講やらでみんな死んだ顔で他のやつが役割を課せられることを祈るという悲しい状況になってしまっているからこそ尚更である。
凛ちゃんには、そんな現実は知らずに、楽しく学校行事に向き合ってくれればと思ったりする。
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