第28話

 凛ちゃんの小テストの対策をしているが、俺自身も小テストに追われている。

 理系科目は当然授業数が増えることで、把握しなければいけないことも増える。

 そのために、内容を確認するための小テストがある。

 そして、他の科目も理系の比重が多くなるからこそ一回一回の内容を重視するので、しっかり小テストがある。

 端的に言うと、小テストの量が一年生の頃よりやたら増えた。

 一年の頃は、英単語と数学、物理の簡単な計算テストぐらいしかなかった。

 しかし、今は難易度と量が増えて再登場し、それらに加えて化学、世界史、地理の暗記系のテストまで登場し始めた。全然嬉しくない。

 凛ちゃんは、真面目でいい点数を取りたいと、いいモチベーションを持っていたが、一年の小テストは別に悪い点数でも、補講や追加課題までは課さないところもそこそこあったので、テスト予告されても全く勉強していない人も少なくなかった。

 ただ、二年生からは話が違うらしい。

 どのテストも八割取れないと、即補講か再テスト。

 または、イエローカードみたいに累積システムで一定回数で専用課題とかルールは様々に、俺らへストレスを与え続けている。

 そして今日も、容赦なく眠くなる五時間目に数学の小テストがあった。

 内容としては、みんながテキストの難し目の問題を容赦なく出してきたこともあって、相当な犠牲者が出た。

 俺も委員長ノートが無かったら、普通に終わっていた。

 二人にもこの範囲まで教えたかったが、そこまで到達するまで間に合わなかった。


「あ”ー! もう無理!」

「いや、俺もきっついわ……」


 遥輝や幸人もかなり参っている。

 今日の小テストに引っかかった人の多さを考えて、しっかり長めに放課後の補講が決定して、二人とも激しく萎えている。

 今までうちのクラスの数学の小テスト不合格者の対応は、追加課題でしかも量が少なかった。

 それなのに、補講という処置が出たことが、なお二人を萎える気持ちを加速させている。

 正直なところ、教え方がふわふわなのに、更に時間をかけて何を教えるのかは、俺にもよく分からない。


「今日の範囲まで教えられなくてすまん」

「いや……。多分教えてもらってもこれは分からなかったわ……」

「今まで何とかしてくれてたから、責めるわけないって……」


 と言いつつも、二人のテンションは最低。

 話すごとにどんどんトーンが落ちている。


「トイレ行ってくるわ……」

「あ、俺も行ってくる……」

「おう」


 二人とも肩を落としながら、教室から出ていった。


「二人はだめだったの?」


 二人が廊下に姿を消した後すぐ、委員長が声を掛けてきた。


「ごめん。想像以上に進むのが早いのと、二人のスケジュール見ながら夜に教えていくのでは間に合わなかった……」

「そっか、そりゃどうしようもないね。正直私も、斗真からの話で問題やる流れになってなきゃ終わってた。ほとんどやられたみたいで、みんなあの二人みたいに萎えちゃってる」

「この後の放課後に、ボチボチしっかり目の補講だもんな」

「そんなみんなが萎えきってる状況の中、六時間目のHRで体育祭運営委員決めだってさ」


 先ほど休み時間になって、数学の教師と入れ替わりで入ってきたうちの担任を見ながら、肩をすくめる委員長。


「誰も立候補しないの決定だな」

「ね。タイミング悪すぎるって話よ。本来ちょっとでも興味あった人も、今の心理状態じゃ名乗り出る気も全くしないでしょ」

「まぁ過程はどうあれ、その事を委員長は想定していたわけだし?」

「本当に助かる。これで斗真にも無理って言われてたら、完全に詰みだったね」

「ダンマリのHRとか、最近無かったもんな。なかなかに地獄の時間だし」

「本当にそれ。さっさと決めて、自習なりの流れにしたい。切実に」


 HRの時間に決め事をする時に、嫌な役割で誰も立候補せずに永遠にも感じられる静寂の時間。

 漫画とかによくある、いじりやいじめみたいに強制的な推薦みたいな構図なんてないので、結局何も決まらないまま時間だけ進む。

 黙って静かな時間を過ごすのはみんな苦痛だが、こういう時に一番きついのが委員長なんだろうなぁ。

 いくら人望があろうが、委員長が直接みんな前で「やってくれない?」とか言えるわけ無いだろうし。

 どんな声掛けをしても帰ってくる反応は無いのに、進行責任を負わされてるから、辛い立場である。


「じゃ、流れ見て話振るからよろしくね」

「うん」


 ※※※※


 六時間目の開始を知らせるチャイムが鳴ると、まずは担任の教師が教卓の前に立つ。


「この時間は、六月に行われる体育祭運営委員を決めてもらう。まだ活動はしないし、早めに決めることになるが、HRの時間を取る機会がなかなか無いのでな。じゃ、後は学級委員の二人が進行で決めてくれ」


 俺が委員長とばかり関わっているので目立たないが、もちろんクラスには男子の学級委員もいる。

 ただ、寡黙な雰囲気で常に休み時間も本とか読んでいたり、一人でいることが多いので関わりにくさを感じていて、話した記憶が無い。

 活発的な委員長が司会をして、彼が黒板に書いたり記録を残したりする役目を担っている。


「さぁ、みんな。さっきの時間で、ちょっと気持ちが落ち込んでいるかもしれないけど、体育祭運営委員やってもいいよーって人居ないかな!?」


 元気よく言うが、全く反応はない。

 こうなる事が分かっていて、無理して元気に声を出す委員長の声だけが虚しく響いた。


「決まらないといつまでも終わらないからなー」


 何も提案やサポートをする気は無いくせに、無駄な茶々だけ入れる。

 ちょっと委員長の頬がピクッと釣り上がった。

 おそらくは余計な口出しをするな、思ったのだろう。

 ……この担任教師、もしかすると寛容なこの委員長に一番嫌われているのでは?


「もちろんみんなには、部活とか、それこそ補講とか課題とか、色々あると思うけど。男女一人ずつ必要だから、何とかやってくれる人……!」


 頼み込むような仕草をしながら、こちらをちらっと見た。そろそろフリが来るかな。

 相変わらずクラスのみんなからの反応は無い。


「やる気無い奴らばかりだなー。そんなんでどーすんの? 二年生にもなってそのあたりの自覚無しなの?」


 相変わらず横からの茶々が入ってくる。

 このHRの時間で、一番担任が喋っててうるさい。


「斗真〜。体育祭運営委員、やってみない?」

「え、俺?」


 一度戸惑いをはさむ。ここまでワンセット。


「うん。部活もしてないし、その他色々ところ見ても適任だと思うから、やってくれないかなーって。どうかな!?」


 委員長がそう言いながら振ると、クラスメイトの視線がこちらに集まる。

 素直に引き受けてくれ、という顔をみんなしている。


「んー、そうだな。やってみようかな……」


 とんだ芝居だが、お互いに決めたことを自然体で実行するのみ。


「お! じゃあ、男子は斗真行こうかな! 異論が無い人は拍手で!」


 委員長がそう言うと、全員が拍手する。


「おい、糸原」

「はい?」


 全員納得して決まろうとしていた時、担任教師が俺に声を掛けてきた。


「随分と結花のゴリ押し感あったけど、それでよかったのか?」

「邪魔すんなよ……。馴れ馴れしく下の名前で呼ぶんじゃねぇよ……」


 委員長の眉間にシワが寄り始めている。

 すんなり手はず通り決まったと思ったら、邪魔しかしない人が邪魔をしに来た形だ。

 委員長、ブチギレ寸前。危ない。


「もちろん。嫌だったら断ってますし」

「じゃあなぜ立候補しなかった?」


 やたら聞いてくるなこの人。


「そういう積極的な性格でもなかったですし、言い出しにくかっただけです」

「ほぉ、まぁええわ。役割だけ渡されて、やる気無しだったら面倒な事になるのはこっちだからな。やるからにはちゃんとやってくれ」

「うるせぇぞ……」


 委員長、一応相手も納得したから落ち着いてくれ。


「じゃあ、女子の方はどうするんだ?」

「誰もいないようなんで、私がします。学級委員と並行してもいいらしいんで。それに何か学級委員とのこの役員の兼ね合いがあった時とかは、一番把握が楽になりますし」

「まぁ、結花がやるなら安心だな。糸原と結花が体育祭運営委員になることで決定でいいなら、二人はこの用紙に、必要事項をこの時間中に記入しておくこと。あとの皆はこれから自習時間。どうせお前らGW勉強しないんだから、ちょっとでも勉強しろ」

「なんでそんなに高圧的なんだよ……」


 まぁその一言には俺も納得だった。

 でも、こんなに委員長がブチギレることもあるんだな。

 結果としては、打ち合わせ通りすんなりと決まったので良かった。

 ただ、二人で用紙記入するときにブチギレている委員長を、静かに宥めることになるとは思わなかったけど。



















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