第27話

「まぁ、何だろうね。兄さんと凛が一緒になる世界線ってやつ? 想像がつかないね」

「というか、今のところ凛ちゃんが誰とであろうが、くっつく光景思い浮かばないだろ」

「そうだね。まぁ、テレビに出る俳優レベルだったら、すぐに納得だけど」


 やっぱりそこに収束するらしい。

 男も女も、容姿が占める重要さの大きさは変わらないらしい。


「仮にだけどさ? もし、俺みたいなやつだったらどう思う?」

「えー……?」

「あ、もうその反応だけで十分ですね」


 俳優レベルのイケメン以外と、付き合っていたならどう思うのか、ちょっとだけ気になったので聞いてみたら、反応がもう悲しい。

 俺みたいなやつ、とか言う聞き方がダメだったか。


「兄さんみたいな、っていうところが難しいところだね」 

「難しい? まさに微妙な反応だな」

「兄さんレベルのスペックっていう意味なら、なんかね。で、今の兄さんみたいな立ち位置で真摯に凛を支えているならありかなって思ったりするけど、現状を見るとくっつく想像がつかないっていうね」

「はっきり言って、俺ぐらいの能力じゃ嫌だ……ってことね」


 部活もしてないし、勉強でも全国難関レベルには届かないわけだし。そうも言いたくなるか。


「まぁそこまでは言ってないから、いじけるなって!」


 女の子は心の中で、こうして男を評価していると考えたら、やっぱり気軽に声掛けとか出来るわけ無い。

 妹ははっきりズバズバ言うけど、凛ちゃんや委員長は優しくて口に出さないだけで、二人とも同じようなことを考えているということなのかな。

 ……恋愛とかいう以前の前に、より二人の前で変なことをしないように意識しておかないといけないような気がしてきた。


「あちゃー、随分と私の言葉がダメージになったって顔してんねー」

「いや、なんか現実を見つめ直せってことだと思う」

「そんなに自分を諭すようにしなくても、兄さんは十分ちゃんとしてるよ。私が保証してやるから!」


 トントンと胸を張りながら、軽く叩いて力強く言い切った。

 その表情は何故かドヤ顔。

 残念なことに、胸を張った割には、常日頃から妹が豪語しているスタイルの良さが分からなかった。


「この私が、自慢とするのが誰よりも最強に可愛い凛と、何だかんだ優しくて頼りになる兄さんだからな! 自信を持て!」

「凛ちゃんと並べてくれるなら、素直に受け止めようかな」

「おう! そうしろそうしろ! 友達とかにも積極的に行けとか言われんの?」

「言われるね」

「でしょ。友達だって、一緒にいるやつの評価が周りで低いなら、変なことして欲しくない。だけど、ちゃんとしてるからこそ普通にそういう声かけしてくれるんだって!」

「そんなもんなのかな?」

「そんなもんよ。凛とかには、彼氏や好きな人どうなのって話するけど、他の知り合いとかでたまにいる恋愛関係で事を荒だてるタイプとかには、絶対にそういう話しないし。それくらいは分かるっしょ?」

「確かにそれはそうだな」

「うん、そういう事よ。やってみて駄目だったら、私や友達含めてそれはやめなよって、最初は言うだろうし」


 いつの間にか、妹相談室になっている。

 鍋の中に入っているものをお玉で混ぜながら、話をしてくれる。


「最初に諭されて、素直に受け止める人と変わらない人がいるしね。兄さんはもちろん前者になることだね」

「勉強になります、先輩」

「そんな初な兄よ、好きな女はおらんのか? 先輩と持ち上げるなら、それくらい言っても良かろう?」

「好きな人……ね」


 過去を振り返って好きになった人。

 ……あんまり記憶がない。


「強いて言うなら、小学校の頃の塾にいた同じクラスの子かな?」

「え、随分と遡るな。なぜに、中学時代の思い出は何も無いんだ」

「部活に基本的に必死だったし、勉強もしなきゃいけないし、最終的に大怪我して日常生活に必死になった結果がこれよ」

「ごめん。一緒にいたんだから、ちょっとは察しておけばよかった」

「いいっすよ、先輩」


 今思い返せば、ちょっとした厨ニ病みたいなところもあって、近寄り難い雰囲気も出していたような気がする。

 その上で大怪我で、見た目でもドン引きさせた結果、出会い無し。 


「まずは気になる女子を見つけないとなー……。初歩的なとこだけど、ボチボチ拗らせてるから、その最初のステップが一番難しいなぁ」


 拗らせてると、隠すこともなくストレートに言い切る妹。

 でも、言われていることは事実である。


「先輩の恋愛事情、聞きたいっす」


 妹の恋愛については、結果報告みたいなことだけ聞いて俺が勝手にあれこれ想像していただけなので、実際にどんな感じなのかは分かっていない。


「うーん。その時に一番求めるもの、っていうがあるね」

「難しいっす、先輩。分かりやすく言え」

「段々、クソ兄感出てんぞ。うーん、分かりやすくって言われてもそのまんまなんだよね」

「その時に一番求めるって、イケメンとかは常時一番求められるだろ」

「もちろんそういう子もいるよ。そういう子は、一番求めるものが、容姿でどんな時も揺らぎないってだけでしょ」

「は?? 意味分からん」


 妹が何を言いたいのか、さっぱり分からない。


「えーっとね、例えばの話。ドラマの話で、○○なタイプの俳優が今人気!ってあるでしょ」

「うん、あるな」

「そこまでライトな感覚じゃないけど、その時の情勢とか、その人に置かれている状況で何を求めているかって変わるじゃん。お金がないなら、お金持ちに憧れるとか。悲しい事があったら、優しくしてくれる人や面白い人が良いとか」

「あー、なるほど」


 段々と妹の言いたいことは分かってきた。


「まぁ確かに、どんな時もイケメンが一番!ってなる人は多いよ。優しさ一番でも、イケメンかそうじゃない人にされるかで受け止め方も変わるしー」

「そんなもんか……」

「でも、美女と野獣って言う言葉があるように、何かがきっちりと合致すると恋愛成立、じゃない?」

「せんぱーい、質問でーす。じゃあ、最近別れた元カレは、先輩が求めているものを持ってたってことですかー?」

「ブブー! イエローカード! そういう調子に乗って無神経なところに勢いに乗って入るところ、あり得ません!」

「イエローカードは真摯に受け止めますんで、とにかく教えろよ、先輩」

「真摯って言葉便利やなー……。ってか気の弱い上級生がヤンキー下級生にいじめられるみたいな古臭いノリやめてくれる? 何だろ、その時は話ししてて面白かったかな」

「やっぱりお前ってライト過ぎない?」

「いや、相手の告ってくるタイミングが一番良かったね。ちょっとでもタイミング遅かったら無かった。一番最高潮の時に来たから、まぁ良いかなって……。で、後悔した」

「なるほど。意外とチョロいんすか、先輩」

「はい、イエローカード二枚目」

「退場じゃん」

「うん。と言う事で、この話は強制的に終わりまーす」


 真摯に受け止めると言った一分後にもう一枚イエローカードを貰った。

 カッカしてるサッカー選手でも、このスピードで二枚目を貰う人はいないだろう。


「でも、ちょっと参考になった。ありがとう」

「いっつもそうやって素直でいりゃあいいのに。真摯って言葉乱用するクソ兄よりも、素直で初な兄のほうがいいわ」

「ちょっとは考えておくわ」

「ま、明日には累積イエローカードは全部消えるから、またなんかあれば相談しな」

「助かります、先輩」


 やっぱりこうして話していると、他の家庭の兄妹よりも俺と妹は仲がいいに違いない。

















 






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