第24話
昼ご飯も終わったところで、今後の予定について雑談を含めながら話が進む。
「凛、まだ時間は大丈夫なの?」
「うん。連絡も来てないし、まだ大丈夫。二人は?」
「んー、凛が良いならもう少しだけ居たいんだけど。兄さん大丈夫?」
「俺は言うまでもなくいいぞ」
特に急いで帰る理由もないので、二人にのんびりしてもらうことにした。
「そう言えば、さっきお兄さんから早紀の強いリクエストでここに来たと聞きましたけど、何が欲しくて来たんです?」
「え!? えっとね……。そのね……」
凛ちゃん相手になら言っても良いようなものだが、妹は言い淀んでいる。
「別に凛ちゃんにまで隠すことなくない?」
「んー……。紅オクラを求めてここに来た!」
「紅オクラ……ですか。あんまり料理に頻繁に使ってるイメージ無いですけど」
「それで逆に気になっちゃって。ゲットするには、ここに来るしか無かったんだよね」
「随分と料理にお熱ですね。何かありましたか?」
「えー。だって凛が料理上手いの見てて、素直にいいなぁって憧れてたし。今までは、兄さんと役割分担してたけど、凛と放課後残るようになったから毎日料理をして更に調理力上げるから」
確かに二人で家事をするようになって、ボチボチ料理のこだわりが出てきてはいたものの、そんな目標があったとは知らなかった。
っていうか、凛ちゃんが料理が上手いということは初耳だった。
「凛ちゃんって料理上手いの?」
「めっさ上手い。私と比べ物にならん」
「そこまででもないですけどね……。それに最近は料理にご無沙汰ですし」
「まぁ新生活忙しいもんねー。しゃーない」
「そう言う早紀だって、新生活なはずなのですけど……」
「特に何も考えてない!」
「早紀らしいですね〜……」
「あ、あとさ言うの忘れてたけど、中学の時から付き合ってたあいつと別れたわ」
「さ、さっぱりしてますね……」
妹の彼氏についての話は、前に聞かされていたけど結局別れたらしい。
聞けば聞くほど、この二人の性格は対極にしか見えないなぁ。
「あー、付き合うんじゃなかった。別れ話切り出したら、あれこれ言われるし」
「彼が必死だったのは知っていますから、何となく想像は付きますけどね……」
「凛は相変わらずモテるだろうし、高校生にもなったら恋愛に興味出てくるかも知れないけど、何となくで付き合わない方がいいかも……」
俺の目線から見て、ライトな感覚でのお付き合いもありだと思っていたけど、妹的には散々懲りてしまったらしい。
ある程度の交友関係にある程度慣れてから初めて、そういうライトな感覚でのお付き合いが成立するのかな……?
委員長も話し的に、付き合った話をするときは個人的に反省とか後悔を感じていることもあるだろうけど、猛烈に端切れが悪いし。
そもそも、俺からしても肯定的な意見を言っているが、ライトな感覚で付き合っていい雰囲気になれるかどうか疑問ではある。
「それはご心配なく。私のメンタルでは、ライトな雰囲気でお付き合いしたら、苦しくて途中でダウンしてしまいますからね。流石にしませんよ」
「うー。恋愛観もちょっとは凛を見習うかー……。マジで今回はウンザリした。二度と同じ失敗したくないわ」
「見習うも何も、私はまだお付き合いしたことありませんけどね……!」
「それもそうなんだよねー。凛ってば、好きになられる経験は腐るほどしてるのに、凛自身が好きになったとか聞いたことないもんなぁ」
「聞いたこともないも何も、誰にもそんな話してないし、するような内容も無かったですからね。あれば、その都度早紀には話してますよ」
「どうだか。成績については頑なに話さなかったじゃんー!」
「そ、それはそうですけどっ!」
「あはは、ごめんごめん。そりゃ隠したい事もあるよね」
「逆に早紀が何でもオープン過ぎるだけなのでは……?」
「そうなのかなぁ。ま、まずは好きな人出来たって話は近いうちに聞きたいなー? ってか、まずはちょっといいなーって思ってる人とかいないの?」
「うーん、どうでしょうかね」
「えー、それも内緒?」
「少なくとも、一緒に入学した同学年には、いませんね!」
「それは、上の学年にはいるってこと!?」
「……さあ、どうでしょうか?」
「一番良いところで誤魔化されたー!」
くでーっとテーブルに突っ伏した妹。
それを見て、楽しそうに笑う凛ちゃん。
「まぁでも、そんな話が出てくるだけでも興味深いけどね。今まで本当にそんな話無かったから」
「まぁ少なからず興味はあります」
「でもさ、そうなったら兄さんと今一緒にいるのは難しくなっちゃいそうだね」
「まぁ、いつかはそうなるのが普通だろうし、その時が来たらその時だ」
確かに妹の言うとおり、凛ちゃんに彼氏ができても相変わらず二人で会っていたら、トラブルになるのは間違いない。
そうなったら少し寂しいけれど、いつかは来ることなのだろうと頭に入れておかなくてはならない。
「そんなことはないと思いますけどね?」
「「え??」」
俺と妹の話に、凛ちゃん一言だけ真っ向から否定した。
「何で?」
妹がそう問いかけるが、凛ちゃんはニコッと笑っただけで何も言わなかった。
そして、そんなタイミングで凛ちゃんのスマホが音を立てた。
「うん、じゃあそろそろそっち行くね……。ごめんなさい、招集かかっちゃいました」
「うん。じゃあね、凛!」
「楽しかったよ。ありがとうね」
「いえいえ、こちらこそアイスご馳走さまでした」
ペコリと頭を下げると、凛ちゃんはフードコートから去って行った。
「うーん、今日の凛は読めなかったなぁ。何で最後だけあんなに頑なな返事だったんだろ?」
「お前に分からないなら、俺には分かるわけねぇよ」
「だよねぇ。あの表情でだんまりなら、本気で言わないってことだろうし。うーん、気になる!」
「ほら、俺達も荷物持って帰るぞ」
「うん」
俺達もフードコートを跡にして、コインロッカーに預けた荷物を回収して、帰路に着いた。
今日、最後の凛ちゃんの表情を見ると、彼女も彼女なりに恋愛という複雑な部分に足を踏み込み始めているのかなと感じた。
ともあれ、何か俺が凛ちゃんの人間関係への障壁にならないように配慮しなければならないとも考えた。
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