第22話

「凛は何食べる?」

「うーん、どうしよっかなぁ。早紀はもう決めたの?」

「決めてたんだけど、見てたら迷ってきた……」


 二人が仲良く何を食べるか相談している間に、ウォーターサーバーで三人分の水をコップに入れる。

 可愛らしい女子学生二人に、ちょい年上に見える男が一人。

 ありそうでなかなか見ることのない、特殊パーティだなと思う。

 何故か周りからチラチラと見られているような気がして、とても落ち着かない。


「兄さんは何食べるの?」

「そうですね、私は蕎麦にします……」

「あれ? そんなチョイス今まで見たことないんだけど。言葉遣いも変わって急にどうした?」


 急にどうしたと言われても、目の前の二人に落ち着かないという理由しかない。

 そして、そんな本気で頭をかしげている妹の隣でこちらを見る凛ちゃんは、何とも言えない雰囲気があるし。


「じゃあ、凛が頼む物と私が頼むものと半分ずつシェアしよ!」

「いいよ! じゃあ、私はパスタにしようかな」

「よし! 凛がパスタなら、私はオムライスだ!」


 各自食べるものが決まったところで、それぞれ一人ずつ注文しに行く。


「ここから遠い早紀が、一番最初に注文しに行って来たら?」

「じゃあ、そうしよっかな」


 凛ちゃんに促されて妹が注文しに行った。

 そして、テーブルには俺と凛ちゃんの二人になった。


「お、お兄さん?」

「はい?」


 凛ちゃんに声をかけられて、声が裏返ってしまった。


「どんだけ焦ってるんですか。別に変なこと言ったりしませんよ」

「分かってる、それは分かってる」


 別に凛ちゃんを信用していないとか、そういうことでは全くないのだが。


「この状況になると、いざ何話していいか分からないんだって……!」

「ま、まぁそうなりますよね。確かにどんな状況であれど、女子二人の間にしっかり入って会話は普通に厳しいですし。でも、そんなに挙動不審になる必要はないですって!」

「それは本当にすまん……!」


 分かってた事ではある。

 高校生にもなって、家族以外の女子とすらまともにご飯に行けていなかったことは。

 そのせいで、凛ちゃんの前で飯を食うという行動すら、謎の緊張感がある。

 何にもないのに、仕草一つ一つに地雷があるような気がしてならない。


「何も無いんですから、普通にしておいてください!」

「う、うん」

「お? 真剣な顔して二人ともどうした?」


 凛ちゃんからお説教を喰らっていると、注文を終えてブザー機器を持って帰ってきた妹がいた。


「な、何でもないよ!」

「うんうん、今度は凛ちゃんが注文しに行っておいで!!」

「わ、分かりました! では、行ってきますね!」


 妹と入れ替わるように、凛ちゃんがテーブルから離れて注文しに向かった。


「ちょっと兄さん!」

「な、何?」

「何? じゃないよ! どうしたの、凛が来てから急に様子がおかしいし」

「ごめんごめん。二人の間に入るのもなんか抵抗あるし、どうしていいか分からない。こんなシチュなかなか無いし」

「変な意識してどうするの! 凛いるんだし、ちょっと兄としてもてなしとかしてよ!」

「……どんなことすればいい?」

「ここにあるスイーツ店で、何か私達に買ってくるとか何か無いの!?」

「なるほど……ってお前にも?」

「父さん母さんから資金が出たけど、その前は兄さんが何か奢ってくれることになってたもん!」

「……分かった分かった!」


 色々言いながら、美味しい話は抜かりなく覚えている。


「戻りました」

「おかえりなさい」

「早紀、あんまりお兄さんをいじめたら駄目ですよ?」

「大丈夫大丈夫! ささ、兄さんは注文に行くんだよ! ほらほら!」

「はいはい」


 ※※※※※


 それぞれ注文した料理をテーブルに並べる。


「凛、あーん」

「ちょっと、早紀ってば! 恥ずかしいよ……!」


 妹がスプーンですくったオムライスを、凛の口元へ運ぶ。

 凛ちゃんは、恥ずかしそうな様子でこちらを見ながら戸惑っていたが、そのまま口を開けてオムライスを頬張った。


「うん、美味しいよ」

「じゃ、今度は凛の方からよろしくー」

「じゃあ行くよ? あーん」


 こうして二人が仲良く関わっているところは、家の家に遊びに来ている時も俺は見ているわけではなかったが、とても美しい友情である。

 高校が変わっても、相変わらずのこの仲の良さも美しいし、可愛らしい女の子同士のこの光景も素晴らしい。

 ダブルの意味で美しい。

 そんなことを思いながら、蕎麦をすする。

 そんな流れで二人は仲良く食べているし、男子である上に、黙々と食べている俺は食べ終わるのが早い。


「ちょっと席外すね」


 食べ終わったので、トレーを持って席を立つ。


「あ、ごめんなさい。食べるの遅くて」

「いやいや、そんなこと無いよ。むしろもっとゆっくりしてて」


 申し訳なさそうにする凛ちゃんに、気にしないように一言だけ告げた。

 蕎麦屋にトレーを返却した後、スイーツ店が密集している場所を見て回る。


「二人に食べてもらうスイーツは何にしようかな……?」


 さっき妹に言われたように、何か二人にデザートを買おうと考えていた。

 自分で働いてもないのに、小遣いで何を偉そうなことをって思ってしまうところだが、ここは妹に要求されたことを都合のいい理由にすることにしよう。

 それにやったし、一回も二回も同じだ。

 アイス屋に立ち寄って、妹と凛ちゃんの二人分を購入する。


「味は何にされますか?」

「えっと……」



 ※※※※※


「戻りー」

「おかえりー、っておっ!」

「おかえりなさい。その両手に持っている物は?」

「アイス買ってきた。二人ともどーぞ!」

「やるねぇ、流石うちの兄だ!」

「そんな、悪いですよ」


 二人はそれぞれ真逆の反応をする。

 妹の反応はふてぶてしく見えるが、こうして素直に喜んで受け取ってくれると嬉しいものである。

 凛ちゃんの反応は普通の人の反応だけど、遠慮されると押し付けているように見える。

 こうすると、喜んで受け取ってもらうって難しい。


「まあまあ。受け取ってくれないと、俺が悲しい」

「……分かりました」

「凛、気にしないでいいから!」


 そんな事を言いながら、すでに妹はアイスを頬張り始めている。

 ……やっぱりふてぶてしくてムカつくかも。


「兄さん、ちゃんと私の好きな味をセレクトしてくれてる!」

「チョコミントは歯磨き粉の味だから、俺は嫌だけどな……」

「美味しいのになぁ……。チョコミント」

「凛ちゃんは、レモンチーズケーキね!」

「ありがとうございます!」

「お、ここのアイス屋で凛の一番好きな味じゃん。兄さん知ってたの? それとも偶然?」


 妹が、凛のアイスを見ながらポツリとそう呟いた。

 それと同時に、二人ともビクリと跳ね上がった。


「え!? ま、まぁ……」

「お話の中に出てきたので、覚えていてくれたんですよね?」

「そ、そうそう」

「へぇ、アイス屋の話までするまで、二人とも打ち解けてるんだ。さっきからあんまり二人が話さないから、ちょっと不安だったけどそれなら大丈夫だね」

「も、もちろん」

「好きな食べ物の話からですよね?」

「うんうん」

「あれ? 凛ってそんなにアイス大好きだったっけ?」

「え、ええ!! 大好きです!」

「そうだったんだー。なら、行ってくれたら先週も寄ったのに」


 そう言いながら、チョコミントを美味しそうに頬張る妹。

 そんな妹の隣で、凛ちゃんがアイスを食べながら軽くいたずらっぽくウインクした。



























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