第21話

 しかしそんな心配も、勉強でクタクタになった体には大したことでなかったようで、ご飯を食べた後は、眠ってしまった。

 相当な時間眠ったことで、かなり体力が戻ったことを実感しながら、土曜日の朝……というより昼前を迎えていた。

 リビングに来ると、妹が今日行くショッピングモールのチラシを入念にチェックしている。


「あ、やっと起きた。夕食食べてからずっと寝てたのに、よくそんなに寝るね。風呂入れって言いにいかなかったら、今まで一回も起きなかったんじゃない?」

「おそらく起きなかったな」

「あれだけ寝たんだから、元気でしょ。さっさと着替えて、買い出し資金貰って出かけるよ」

「あいよ」


 週末お決まりの流れである、妹が適当に残した朝飯を口に放り込む。

 妹に急かされながら、着替えと親から買い物資金を頂戴する。

 その時の、二人で行くと言った時の親二人の驚きようはなかなかのものであった。

 その後、いつもよりも多めに資金を貰って、残りは全て自由に使っていいと言われた、正直助かった。

 早速、路線バスに乗ってショッピングモールへ。

 お互い自転車で行きたいと考えていたが、たくさんの荷物を持ちながら交通量の多い場所に行くなと言われた。


「私が停車ボタンを押すー!」


 最寄り駅に近付くと、妹が体の乗り出しながら、名一杯手を伸ばして停車ボタンを押す。

 高校生になっても、言っていることとやっていることが小学生の頃と変わってない。

 バス乗らない小学生とか、やたら停車ボタンに憧れる節があるな。

 妹の様子にそんなことを感じながら、バスから降りてショッピングモールへと向かう。

 週末でたくさんの人で賑わっており、家族連れや友達と遊びに来たであろう人たちも見受けられる。


「よし、今のところは知り合いらしき人はいないな……! じゃ、早速食品の買い物を先にしよう! 紅オクラが売り切れたら大変だ!」

「急がなくても売り切れたりしないだろ……」


 紅オクラをどこまで神聖視しているのかよく分からないが、取り敢えず先に必要な買い出しをすることにした。

 その後に、買った物をロッカーにしまって、ご飯を食べたり、ちょっと他の店も回ってから帰ることになった。


「よし。流れも決まったことだし、サクサク進めていこー」


 カートにカゴをセットして、買い物開始。

 真っ先に野菜コーナーへと向かい、紅オクラの並んでいるところに急行。

 俺の予想通りというか、まだまだ在庫数には余裕がある。

 その一つ一つを丁寧に吟味して、どれを買うか過去一番じゃないかというレベルの顔の険しさをしている。


「お嬢ちゃん! そんなに紅オクラに興味あるのかい? 嬉しいねぇ!」

「あ、はい……」


 その結果、その真剣さが野菜を並べていた店員さんに伝わってしっかりと声をかけられてしまった。

 妹は恥ずかしそうに、小さな声で返事しながら顔を赤くしていた。


「結局、俺がいなくても知り合い居なくても、声かけられてんじゃねぇか」

「……うるさい」


 そんな事がありながらも、順調に必要なものを買い揃えていく。

 確かに売り場が大きいだけに、良いものも多くある。

 買い物を進めるうちに、妹の気持ちも分かるような気がしてきた。

 一通り購入する物を手に入れた後、レジでマイカゴに買った商品を綺麗に入れてもらい、精算を済ませる。

 その後、ずっしりと重くなったマイカゴを何とかコインロッカーの前まで持っていって、空いたところに収納した。


「これで一番にやるべきことは、終わったね!」

「良かったな、知り合いに見つからなくて。あの勢いを見られたら、確かにしばらくは学校内でイジられる」

「……でしょ」


 そんな話をしながら、俺達は一階の食材売り場から二階のフードコートなどがあるエリアに移動する。


「フードコート行くまでの間にある雑貨屋、見て行ってもいい?」

「いいよ」


 俺がそう言うと、目の前のオシャレな雑貨屋に妹は吸い込まれて行った。

 可愛らしいものがたくさんあるが、言うまでもなく俺にはよく分からない。

 俺にとっての雑貨屋はヴィレッジ○ンガードという大手のところくらいなもの。

 近くにある休憩用ベンチに座って、スマホをいじりながら待つ。

 妹相手なのでこんなふうに待っているものの、デートとかなら、こういうところに一緒に入って「何がいいね」とか話しながら付き合うものなのだろうか。

 自分の分からないものや興味の無いものを、適当な感覚でもいいから、似合うとか似合わない言うべきなのか、こうしておとなしく待つべきなのか。

 俺はもちろん後者でいる方が楽であることは間違いないが、こんな感じだと冷められるんだろうなぁ。

 そんなちゃんとしたデートの予定など一切無いのに、そんなことを考えていると――。


「あれ? お兄さん?」

「え? 凛ちゃん??」


 聞き慣れた声が聞こえてパッと顔を上げると、昨日も顔を合わせた凛ちゃんの姿がある。

 最近は、学生服姿にすっかり見慣れてきたから、逆に私服姿が新鮮に見える。


「どうしてここに?」

「食材の買い物で、妹の強いリクエストでこっちに来たのよ。で、買い物を終えて今はそこの雑貨屋に妹が――」

「あ、凛じゃん!!」


 俺の言葉が終わらないうちに、雑貨屋で買い物を済ませた妹が出てきた。


「お兄さんとお買い物デート?」

「ま、まぁそんなとこ……」


 凛ちゃんの質問に、やや目を逸らしながら適当にはぐらかした。

 反応からして、凛ちゃんにも話していなかったようだが、そんな反応をしたら本気で兄妹デートしているように取られそう。


「ふふ、仲良いんだね」

「ま、まぁね! 凛はどうしたの?」

「両親が買い物に来てて、そこに付いてきたの。買い物してる間、好きに見たいところ行っておいでって言われたから」

「そうなんだ! あ、言い忘れてた! いつも愚兄がお世話になってます!」

「いえいえ、こちらこそ!」

「それ、わざわざ改まって俺の前でしなくてもいいでしょうよ……」


 先週一緒に遊んでいるのだから、このやり取りは間違いなくしてるはずなのに。


「二人は今からどうするの?」

「今からそこで、ご飯食べる! 凛は、もうご飯食べたの?」

「ううん、まだだよ。どうしようかなってまだ決まってない」


 そんな話をしていると、凛ちゃんのスマホが鳴り出す。


「っとと、ごめんね。親から」


 スマホを手にとって話をしだす。


「うん。今ね、偶然早紀とそのお兄さんに会ってて……。えっとね、今からご飯食べるって言ってる。えっ!? 一緒に食べて来たらって? 二人に迷惑だから……!」


 凛ちゃんの反応を見る限り、俺達のことを話した結果、一緒に食べておいでと言われているようだ。


「いや、お金は十分持ってるけど、そういうことじゃ……! って切れちゃった」


 スマホを耳元から離すと、凛ちゃん苦笑いを浮かべながらそう話した。


「いいじゃん! 三人でご飯食べよ!」

「いいの? でもお兄さんの方がいいかどうか……」


 そんなことを言いながらこちらを見てくる。

 明らかにいつもの雰囲気と違って、前の凛ちゃんモードになっている。違和感しか無い。


「拒否するわけないよね、兄さん?」

「う、うん。全然問題無いよ。こういう機会も無いし、行こう行こう」


 なぜか心は落ち着いていないけど、三人でご飯を食べることに関しては何も問題は無い。


「ありがとうございます……!」


 その反応と表情、違和感しかないってば。


「んじゃ、行こ行こ! 二人がどんな風な学校生活なのか、更に聞いていこうかなぁ!?」

「もー、早紀ってば茶化しちゃって。いつも話してる通りだよ? ね、お兄さん?」

「そ、そうだよな」


 そんな話をしている二人の後ろに付いていくように、フードコートへと向かうことになった。

 大丈夫、ただご飯を食べるだけ。

 そう言い聞かせるが、謎の緊張感が俺を支配している。






 

















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