第20話
様々な話が一気に展開されて、バタバタしていたが体育祭運営委員の話が決まってところでやっと落ち着いた生活様式になってきた。
普通に登校して、授業を受けて放課後は凛ちゃんと一緒に勉強してから帰る。
相変わらず、この勉強場所にしている社会科資料室には誰も来ることはなく、落ち着いた時間を過ごす事が出来ている。
「こ、このノート渡しとくわ……」
そして委員長は、あの話から約三日後に全ての問題を解き終えてそのノートを俺に提供するという、人間離れした気力を見せつけてきた。
ただ、やはり大変だったのは間違いないようで、大分へばっていた。
「ありがとう。めちゃくちゃ早いな」
「わ、私が本気を出せばこれくらい余裕よ……」
と、言葉だけ見れば強気だったが、自分の席に戻るときにフラフラしていたし、授業中も珍しくウトウトしていた。
そんな様子を見ると、流石に申し訳無さしか感じなくなるが、彼女にはこれは譲れないという意地があったとの事なので、黙ってここはありがたく享受する。
休み時間などの空き時間に、嫌がる遥輝を無理やり机に座らせて問題の解き方を教えていく。
同時に、俺もノートを元に解き方をしっかり頭に入れる。
結局、俺がやる事自体は減っていない。
それどころか多少増えているが、委員長の頑張りによってこの辺りも相当スムーズに事が進むようになってきた。
しかし、ただでさえ授業をしている中で、休み時間と放課後も勉強。
本当に、ほとんど勉強に一日を使っている状態。
うちは進学校ではあるが、別に全国難関高校なワケでもない。
地域で見ればまぁまぁレベルの高校にいる受験生でもないやつにしては、相当な時間だと思う。
「うごごご……」
家に帰って、妹が必死にやる家事の手伝いを最初はしてきたのに三日も経たないうちに、何もしない駄目兄が完成した。
帰って来たら、荷物を置いてリビングのテーブルで机に突っ伏して唸っているだけ。
普通にキレられてもおかしくない状態。
「はいはい、お疲れ様。もうちょっとで落ち着くから、もうそうやって楽にしてなー」
「すまねぇ……」
こんな近くにいると、不愉快な気持ちにしかならない存在にキレることもなく、黙々と家事をこなす妹。
女子力の高さがすでに漂っている。もう嫁に行けそうなレベル。絶対に許さんけど。
見てくれもいいし、レベルの高い女子にさらにステップアップしている。
我が妹として、鼻が高い。
「凛から聞いてるよ。すごく丁寧に付き合ってくれるから、怖いくらい順調だって」
「一年生は、ああして課題する時間をそれなりに取れると、相当無双できるからな。一年生の最高の才色兼備枠は揺るぎないものだぞ」
「やるじゃん。でも、凛の成績が上がって兄さんの成績が微妙だったら、凛に抜かれちゃうよ?」
「そう、威厳がなくなる。だからそっちにも必死よ」
「分かってるならいいや」
順調も何も、今のところ凛ちゃんの力になれているかといえば微妙なところ。
一緒に勉強こそしているものの、当初の勉強を教えるという役割はまだ回ってきていない。
高校一年生の頃から、こんなに放課後にバリバリ課題や自習学習している人もそんなにいないだろうし。
さっき妹が言ったように、凛ちゃんに順位とかで上に行かれると威厳がなくなる。
彼女の成績を見ることは多かったけど、自分の成績を見せたことはない。
「これだけ偉そうに言ってて、私以下だったの?」とかになったら、幻滅されるだろうなぁ。
委員長ノートできっちり自分に足らないものを、全て回収してしまわねば。
「よし、出来た!」
「お疲れ様、ありがとー」
夕食の支度を終えた妹も、俺と同じテーブルにつく。
「ねぇ、兄さん」
「何?」
何を改まって声をかけてきたんだ、と思いながら顔を上げると、笑顔を浮かべた妹がいる。
言うまでもなく、嫌な予感がする。
「明日は土曜日じゃん?」
「うん」
「すごく勉強を頑張ってるカッコいい兄さんと、週末デートしたいなぁ?」
「は?」
「食材の買い足し……一緒に行こ?」
「え、何で??」
我が家では、週末に買い物をすることが日課なのだが、その役割も俺たちが担っている。
最近では、週毎に交代で買い物の役割を担っていたのだが。
今更、一緒に行きたいとか言い出した。
荷物が重いから、荷物持ちでもさせたいのか?
いや、ならはっきりと言いそうなものだが。
「ちょっしたお出かけみたいな感じで、少し離れたショッピングモールまで行かない?」
「わざわざ何でそこまで?」
「気分転換になるし!」
「……お前、何かそこに欲しいものがあるのか?」
「……」
「素直に言いなさい。怒らないから」
妹はスッと真顔に戻って、いうかすごく迷っている。なぜ分かるかというと、目が右往左往しているからである。
こんなあからさまにおかしい言動で話を切り出されたら、何かあることぐらいすぐにバレるというのに。
「紅オクラが……欲しいんだよ!」
「は?」
「……オクラが紫玉ねぎみたいな色したやつ。あれが欲しいんだよ!」
「……は?」
はっきりと言って、妹の言っていることが分からない。
「料理の彩りもあるけど、ちょっと見たことない野菜に興味あるんだよ! そういうちょっと見ないやつは、近くのスーパーじゃないし!」
「……はぁ」
「さっきから『は』ってしか発音してないけど、どう思ってんの!?」
「いや別に良いだろ、買いに行けば」
「べ、紅オクラのために遠出するの恥ずかしい……」
「いや、誰もそんな目的だと気が付かんわ! というか、この年で兄と仲良く二人で食材買い物する方が恥ずかしいだろ!」
「甘い!甘すぎるぞ! こんな田舎じゃ、主な遊び場所として利用する私達ぐらいの人が、たくさんいるんだから! どこで知り合いに会うかわからないじゃん! そんなところで、紅オクラ厳選しているところ見られたら……」
顔を青くして、震えながら話す妹。
妹の頭の中で、どんな想像が繰り広げられているのか、よく分からない。
しかし、こんなにも感情を表して必死な妹もなかなかに珍しい。
「お願い、兄さん! このとーり!!!」
「そこまで言うなら、付き合うよ。せっかくだし、昼飯もショッピングモール内で食って帰るか?」
「やりぃ! ゴチになりまーす!」
「奢るなんてそんなこと一言も……。あんまり高いもの食ってくれるなよ……」
奢る気などサラサラなくて、妹のお財布事情的にいけるなら、飯食って帰るかどうか訪ねたのに、奢ってもらえる無言サインだと勝手に感じてくれたらしい。
しかし、放課後の家事を丸投げして感謝はしていると言葉だけ並べていたので、一度くらい奢るのでもいいかと思い直した。
「分かってる分かってる!」
「そう言いながら、早速スマホで高そうなものを探すな」
「ステーキ食べたい!」
「父さんに頼めや! お前に甘いんだから、一発OKだろ!」
まさかお互いに高校生になってから、二人で買い物に行くことになるとは。
まぁそれくらい俺という兄に、嫌悪感を抱いていないと言うことではあるので良いことか。
そんなシンプルにポジティブに捉えていきたいが、妹がどんな昼飯を選択するのか、今から心配でならない。
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