第19話

「……今思ったんですけど、平日の放課後対応出来ない期間だけじゃなくても別によくないですか?」

「え?」

「もう今週からそのシステムを、この先ずっと適応しても良いと思うのですが!」

「何でそうなる……」


 そんなことをしてしまうと、絶対に休日の凛ちゃん宅に親御さんが不在のタイミングが必ず出来る。

 さっき30秒前に祈った切なる願いは、確実に無と帰ることになってしまう。


「もう平日はこうして毎日会う関係ですし、休みの二日間がちょっと増えるだけですし?」


 単純にその休みの二日間がちょっと増えると、毎日会うことになる。

 そんなに頻繁に会うと、確実に段々と息苦しくなると思うのだが。


「まぁそのことは追々考えることにしよう……」

「分かりました! お兄さんがもし断ったら、早紀に意地悪されたって相談してもいいですか?」

「やる事がえげつなさすぎる。そんなことされたら、俺が家から追い出されるわ!」


 そのオプションをチラつかされると、断ることなど出来なくなる。


「流石に冗談です。でもお兄さんさえ良ければ、たまにはお願いします」

「分かった。それはちゃんと約束する」

「はい!」


 ニコニコといつものように明るい笑顔をこちらに向けてくる。

 今では当たり前だが、最初会ったときの作り笑顔のときに比べたら、本当によく笑うようになったと思う。

 整った顔立ちだから、どんな笑顔も様になっているが、やはり自然体が一番良い。


「さ、勉強しよう。休みの日にやる予定が出来たとはいえ、出来るだけこの平日の時間が確保出来ているうちにしっかり進めておこう」


 凛ちゃんに伝えるべきことと、今後の予定についてある程度決まったので、再び課題に向き合った。


 ※※※※


 夜、自室にて。今日のことを踏まえて委員長に体育祭運営委員の役割を受けられることを報告した。


『おお、それは助かる!』

「決めるときになったら、適当に俺に押し付けるような形でバトン投げてくれれば」

『あいあいー! 取り敢えず立候補する人がいないか聞いてみて、いなかったら斗真を指名すればいいね!』

「うん。それでいこう」


 自ら立候補するような性格でもないし、もしかするとやる気のある人もいるかもしれない。

 そういうことも考慮して、委員長に適当なタイミングを見計らって投げてもらうことにした。

 一年の頃から何もしてこなかったやつが、いきなり立候補するだけで何やかんや言われることがあるからな……。


『しっかし、先に私が斗真を助けると思いきや、先に私がフォロー受けちまったかー』

「別に委員長個人の問題、ってわけではないけどね。俺の場合は、がっつり自分の困ってることを助けてもらってるわけだし」

『そうなんだけど、それでも本当に助かる。うちの担任が何でも私に任せておけば、何とかなるみたいになってるから、仕事とか考える事多くて、結構しんどかったし』

「そうだったのか」


 うちのクラスには男子学級委員長もいるのだが、やはり一年の頃からのリーダーシップをとってきた実績をあてにされているのか。


『数学の方はもう少しだけ待って。ごめんね』

「いやいや、急がないよ。というか、そんなに忙しいなら、教師捕まえて聞くから無理しないで」

『んや、これはやらせてくれ。助けてもらいっぱなしなのも許せん! そして何よりも、私が相当勉強出来るやつだと思い知ってもらいたいし!』

「一年の頃から、成績優秀者バラしたがる先生とかがさんざん褒めてたから知ってる知ってる」

『いや! 実際にその目に焼き付けてもらわねば、気が済まない! ということで頑張るわ!』

「そこまで言うなら頼む。期待してる」

『任せろ! そして斗真だけでなく、あいつら二人へ教える時にも有効活用してくれぃ!』

「うん、そうするわ。部活も離脱できない立場になって、気合入ってるからな二人とも」

『だねー。一年の頃は、チャラくてバカなやつに目をつけられたなーって思ってたけど。変わるもんだねぇ』

「目をつけられた?」

『流石にあからさまですぐに分かったよ、遥輝が私の事を好きなんだなって。当時の第一印象があんまり良くなかったから、目を付けられたっていう感じ方だったね。今思いかえぜば、失礼な女よ』


 気がついているかどうか、疑問には感じていた。

 しかし、波風立たずに落ち着いたので言及することもなく触れなかったことだが、委員長は気がついていたらしい。


「知っていたのか」


 まぁモテるから、そういう相手のことは大体気がつくようになるか。


『で、斗真はそんな遥輝に気を遣って、あんまり関わらないように私から距離を少し取ってた。どう? さすがに、これは私の自惚れ予想かな?』

「いや、正解だよ」


 そこまで見抜かれていたとは。よく観察されている。


『斗真って、すごく周りの人に気を遣うよね。ビックリするくらい』

「そうなのかな? でも、相手を不愉快にさせたくないってなると、やっぱり慎重にはなる」

『うん、そんな感じする。恋愛とかに奥手なのも、そういうところ意識してるの?』

「んー、そうなのかも。ぶっちゃけると、適度な距離感で、女子から頼りに出来る親切な人止まりでいるのが、一番印象良いと考えてしまうね」

『ま、シンプルに踏みこむのが苦手ってことですな!』

「そ、そういうことです……」


 回りくどく言ったのに、やっぱり核心をあっさりと突かれた。

 確かに、踏み込むことが苦手。

 同性相手にすら、友達になる上で踏み込んだ結果合わずにその後、険悪なったことも珍しくもない。

 遥輝や幸人は、基本的にどんな人とも仲良くなれるようなタイプだったから、ああして友達になれたけど。

 そして、どこまで受け入れて頼りにしてくれる子が一人。

 今までのことを振り返ると、自分が適度な距離感で接した方がうまく行っていると感じている。


『ふむふむ、なかなかに深い悩みの種なのでは?』

「多分、そうだね。だって委員長に対しても、慣れてきだしたら、段々と嫌われそうって今でもビビってるもん」

『んー、今のところはむしろ話しやすいし、良いイメージしかないんだけどな』


 それはまだ委員長と話し始めたばかりだからだと思ったが、そんなことを言ったところで卑屈にしか聞こえないので、止めた。


『ま、のらりくらり過ごしてるように見える斗真でも悩みがあるってことがよーく分かったよ!』

「なんか前、メッセージのやり取りで委員長の彼氏事件の話の逆パターンになったな」

『事件とはなんだ!!』

「いやぁ、元カレさんが今でも引きずってる可能性を考えると……!」

『うぐっ……! そ、その話はおしまい!』

「だな。こういう話を引っ張るのは良くねぇわ。じゃ、そろそろ明日の準備とか寝る準備するわ。おやすみ」

『あい、また明日!』


 話が落ち着いたので、電話を切ろうとした。


『あ、斗真』


 その前に、委員長に呼び止められた。


「どうかしたか?」

『恋愛でも交友関係でも何か悩みがある時は、私で良ければ聞くから、良ければ話してね。もうマブダチの関係だろうし!』

「……マブダチって死語じゃない?」


 めちゃくちゃ久々に聞いたワードだ。

 ギャルならまだ……言うのか?

 男子で使ってるやつ見たことないから、久々に聞いた。


『うっさいわ!』

「でも、ありがとう」

『あい!』


 交友関係に関して、遥輝や幸人に相談するのが自然な流れなんだろうけど、委員長とくっつけたがったり、思わぬ方向に展開しそうなこともある。

 何か困ったときは、委員長に相談してみることはいいかもしれない。























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