第18話
次の日の放課後、いつも通り社会科資料室に集まったところで、凛ちゃんに昨日出た話について切り出してみた。
「体育祭運営委員……ですか?」
「そう、これが結構面倒なやつでな。昼休みとか放課後は招集がかかりやすい」
「確か中学の時も、そんな感じでしたね」
「周りの人はみんな部活やってるから、やりたがらないのよね……」
「なので、お兄さんに白羽の矢が立ったということですか?」
「そういうことになるね」
「なるほどです。ということは、お兄さんと勉強するこの時間の確保が難しくなりますね」
「正式に決まるとそうだね。誰かが、立候補すればしなくてもいいけど、あてにはできないかな……」
考えに考えた結果、誰も名乗りを上げない場合は俺がやることにした。
もちろん委員長の頼みでもあるけど、やはり誰もやらないと、部活をしていないお前が適任っていう流れが出来ると思う。
そこで拒絶すると、周りが白ける。
そんな周りの雰囲気に合わせるということが第一理由で、凛ちゃんとの約束をおそろかにするのは、どうなのかとなるかもしれない。
でもその状況に応じて、一番やるべきだろっていう適任の人が受け入れることはやむを得ないこと。
俺は俺でお前らの要求など知らない、という一点張りでは、集団生活はやっていけない。
「体育祭は六月らしいですから、およそ来月ぐらいから活動するんですかね?」
「うん。一ヶ月弱くらいかな」
「分かりました。その間は……一人で勉強します」
理解を示すような言葉は並べるものの、やはり表情は元気の無い顔になってしまった。
ただ、俺も何も代替案無しにこんな話を切り出したわけではない。
「平日は厳しいかもしれない。でも、もし良かったら休みの日に会って一緒に勉強しよう」
「土日にですか?」
「うん、あくまでも凛ちゃんの予定依存になっちゃうけど……」
「空いてます! むしろ、意地でも空けます!」
「お、俺は土日常に暇だから、凛ちゃんの都合に合わせて呼び出してくれたらいいんだよ」
休日代替案を切り出した瞬間、凛ちゃんの表情がすぐに明るくなった。
その様子を見て、俺としてもすごくホッとしたのは間違いないが、想像以上の食いつきようである。
「つまり私さえ予定が無ければ、お兄さんと一日中居ても良い、ということになるんですか!?」
「ずっと一緒にいるのが嫌じゃないなら、もちろんいいよ。平日の約束を一時的とはいえ、早速反故にしてしまうんだから」
「……言質、取りました」
反応からして、必ず一日予定を空けるつもりなのだなと分かる反応である。
「土日だし、外で勉強するのもいいね。前見たカフェとか」
「ですね。多分部活で学校開いてますけど、わざわざここまで来てやる必要もなそうですね」
せっかく休みに長時間勉強するのであるなら、少しオシャレなところで勉強するのもありかもしれない。
商店街散策の時もすごく楽しそうにしていたから、妹のような女の子同士の友達とはあまり行かなさそうなところでいい場所がないか、探してみるのもありかもしれない。
「商店街の時はすごく楽しそうだったから、今度もそういう感じで楽しんでもらえそうなところがないか、探しておくよ」
「ありがとうございます。楽しみにしておきますね!」
ニコニコ笑顔で、期待を込めた言葉が返ってくる。
平日の約束を、早くも反故にしてしまうことになりそうな上に、休みの時間を使うのだからしっかり楽しんでもらえるようにしないといけない。
彼女の笑顔を見て、そんなことを思っていると——。
「おでかけもいいですけど、家で二人でゆっくり勉強する。というのも、一つの案ですよ?」
期待の言葉に続いて、そんな提案をしてきた。
「いや、それはさすがに厳しいぞ。聞いていると思うけど、妹は部活は緩めのところで、土日は普通に家にいるぞ?」
「もちろん、それは知ってますよ。だって前の土曜日に、早紀と遊びに出かけましたからね」
「でしょ。だから無理だと……」
「私の家の方なら、早紀はいませんよ?」
「凛ちゃんの家……!?」
「ええ。私の家にご招待……。出来ますよ?」
あり得なすぎることで、今まで全く考えとして浮かぶこともなかった。
凛ちゃん=うちの家に来る存在としてすでにインプットされていたので、一瞬どういうことか全く意味が分からなかった。
「いやいや! だって休みだし、親御さんいるでしょう!? 男を連れてくるとか、特にお父様は気を失いかねんぞ!」
「大丈夫ですよ! だって早紀は何度かうちに来ていますし、早紀のお兄さんだと説明すれば、必ず受け入れてくれます!」
「いや、そうはならんやろ……」
「何でです??」
凛ちゃんは何故といった表情をしており、本気で何も分かっていない。
同性ならまだしも、いくら友達の兄だからと言って異性を連れてきて二人っきりになっていたら、誰でも頭に?が浮かぶ。
というか、高校生男子脳から考えて、逆にいかがわしさが増す。
それに、そのことを仮に容認されたとしても、今度妹が凛ちゃん宅へ遊びに行った際に親御さんから俺の話題が出たりでもしたら——。
アカン。寒気がしてきた。
「と、とにかく! その案は止めよう! 普通に考えておかしいシチュエーションだもの! 親御さんの妹に対する信頼度を落とすわけにはいかない!」
凛ちゃんの親御さんの妹に対する信頼度の失墜=妹と凛ちゃんの友情瓦解なんてことがあったら、大変だ。
親御さんから、「あの子達と関わるのは止めなさい!」と言われ、凛ちゃんが「なんでそんなことを言うの!」と親子間に溝が出来るパターンだってある。
全て起こりうる原因としては、俺。
絶対に避けねばならない!
「分かりました――」
「おお、分かってくれt……」
「うちの親がいない時なら、良いってことになりますね?」
「え?」
「え?」
納得してもらえて未曾有の大事件にならずに済んだ、と思ったのに、最終的になぜか疑問を表す発音をお互いにぶつけあうという構図が出来上がった。
「いやいや、ダメでしょうよ」
「いやいや、なぜですか。うちの親さえいなければオッケー見たいな口ぶりだったじゃないですか」
「親御さん居なくてもダメでしょうよ! 仮にも後輩の女の子の家に行くなんて!」
「なーにを言っているんですかっ! 散々、私を自分の家に呼び込んでダメにしておいて、逆パターンだけ無しとはどのような理由があるって言うんですか!」
そこそこ突っ込みたいところはあるが、凛ちゃんの言っていることは正論だった。
どっちの家に呼び込もうが、同じは同じ。
「だ、ダメなものはダメなんじゃわ!」
「出ましたね、焦ると方言になる癖! 控えめに言って結構ありです! っと、話がずれましたね! っていうか、お兄さん。そんなに頑なに否定するのには、何か理由があるんですよね」
「さ、さあ?」
「女の子側の部屋に呼び込まれることに対して、ちょっとやらしいこと考えていませんか?」
正解。普通にちょっとやらしいイメージしか湧かない。
「そんなわけないじゃないか!」
「ですよね。最愛の妹と仲のいい友達に、環境が少し変わっただけでちょっとエッチな感情を出すとか、あり得ませんもんね」
「もちろん」
「はい。なら、いけますよね。不純な動機が無ければ、場所が違うだけです。候補に入れましょう」
「はい……」
久々に強い力で引き込まれた。
一カ月弱の間、どうか休みの日に凛ちゃんの親御さんが家から長時間離れないことを、願うばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます