第17話

 その後、気を取り直して凛ちゃんともうしばらくだけお互いの勉強を進めてから帰宅した。

 家に戻ると、洗濯物は回収されて綺麗にたたまれており、妹が料理に集中している。


「ただいま」

「おかえりー。初回のお勉強会はどうだったの?」

「まだ最初だから、サクサク課題進めた。凛ちゃん自身、すごく入学テストの成績も良くて順調だね」

「そうだったんだ。凛ってば、悪いときなら分かるけど、良いときも頑なに成績の事は言いたがらないから、私からも聞くことないからそれ聞けてちょっと嬉しいかも」

「お、お前には言ってなかったのか……」


 俺に対して凛ちゃんは、成績についてずっとオープンだった。

 そのことに慣れていて、抵抗なく話してしまった。

 友達とはいえ、成績は個人情報で言いたくない人はいくらでもいる。


「大丈夫。その辺りの事は兄さんよりも、私の方が理解してるし。凛との話に出すつもりないよ。あくまでも、私も頑張らなきゃって自分にはっぱをかけるきっかけにする!」

「すまん」

「ううん。むしろ、良いこと知れて嬉しかったし、今の表情で凛に対して、丁寧に接してくれている事が分かったし」

「察しのいい出来てる妹で助かる」

「でも兄さん。私の性格どうのこうの言うけど、そのうっかり癖は、私の前だけにしてよねー」

「いや、本当にそうだ。返す言葉も無い。マジで

 ちゃんと気を付けるわ」

「よし。反省して素直に変わろうとしてくれるところ、いい兄だぞ」


 こういう鋭い指摘をする辺り、妹が常日頃から誰に対してもフレンドリーでコミュ力抜群なところにも繋がっているのだろう。

 大雑把で、適当な感じなところが多そうに見えて、たまにこうして指摘されることは確実にクリティカルヒットする内容でしかない。


「手伝うわ。何したらいい?」

「んーとね、今日の料理には使わなさそうなお皿を片付けて、必要なやつを棚から出して並べといてくれる?」

「了解」


 妹がある程度進めてくれている料理の準備を、俺も協力して行った。



 夕食後、再び俺は数学の問題と向き合っていた。

 基本問題は出来るようになったが、やはり応用・発展問題が出来ないと、テストで満足な成績は取れない。

 苦手な分野だから、点数が落ちましたなんて言うことは、言い訳になるわけがない。

 そして何よりも、凛ちゃんとの勉強指導を再開しといて一発目に成績が下がることはあり得ない。

 そんなことになってしまえば、凛ちゃんはもちろんのこと、妹ですら不安にさせかねない。

 成績下がって「何やってんだ!」って怒るというより、あいつならまず心配してくるだろうし。

 あれだけ気合を入れて、家の役割を受け持ってもらっている以上、もっとしっかりしないと。


「とは思うものの、やっぱり訳わかんねぇ……」


 うちの高校は、アウトプット意識をつけることに重点を置いていて、問題集の答えも途中式などの解説が一切載っていないものしか配布されていない。

 まぁ全部載ってると、写すやつは平気で写すからこうする理由も分かるけど。


「ダメだ、時間の無駄すぎる。委員長に助けを求めてみよう」


 今日の言われてすぐに、助けを求められてびっくりされるかもしれないが、とにかく相談してみることにした。

 早速、メッセージで数学の問題がわからない旨を伝える。

 送信した後、数学を断念して英語の予習に進路変更した。

 一時間ほど経った後、突然スマホが振動を始めた。


「電話……?」


 手にとって見ると、相手は委員長だった。

 フリックして応答モードにする。


『あ、でたでた! ごめん、ちょっと帰ってからバタついてた!』

「いや、そんなタイミングにこっちこそごめん」

『多分、文面で書くのめんどいでしょ。口頭で言ってくれると早いし。どこがしんどい?』

「シンプルに図形と方程式の範囲がヤバい。あの先生もフワフワだし」

『それみんな言ってるー。 私も同感だけど』

「基本問題は出来たんだけど、問題集のそれ以降が全く駄目だわ。助けてください」

『え、もうそんなとこまでやってんの!?』

「苦手だから、さっさとやり方覚えたいなーって。ごめん、そっちのペース乱して」

『ううん。オッケー、ちょっと私もやるわ。どっちにしても、やって分からなかったら誰かに聞かないといけないし。早めにやることは悪いことじゃない』

「本当に助かる、ありがと」

『良いってことよ。私もきっかけ無いとなかなか動かないし』

「これで委員長に一つ借りが出来たな……!」

『まだ何も教えられると決まったわけでも無いのに、気が早すぎるよ! ……まぁ正直なところ、私も斗真に頼みたいこと一つあるんだけどね』

「何?」


 委員長からの頼まれ事。出来るなら、応えたいところではあるが。


『六月にある体育祭に向けて、来月に入ったら体育祭運営委員とか決めないといけないんだけど、多分みんなやりたがらないんだよ』

「それで、俺にやってくれってこと?」

『端的に言えばそうだね。部活してないし、女子含めてみんなと話出来てイメージいいし。経験上、団体競技とかすると一回はクラス割れする可能性を考慮しといた方がいいからね』

「なるほど……」


 体育祭運営委員。体育祭を行う上で、どこの学校もほぼ確実に存在する一時的な役割であろう。

 ピークになると、放課後も昼休みも潰れることは珍しくもない。

 つまり、凛ちゃんとの勉強会に影響が出ることは避けられない。


『掛け持ちセーフらしいから、女子枠に関して私がやれば、こっちは着くんだけどね……。男子枠はどうしても、誰かに出てもらわなきゃいけないから』

「そりゃそうだよな。避けられんことだし」


 部活はあるし、シンプルに体育祭へマイナスな印象を持ってるやつもいるだろうし、何より仕事が面倒だから、おそらく男子は誰もやりたがらないだろうな。


『もちろん、部活してないから暇だろうなんてことは思ってないからね。この機会に強引にやらせるような感じなったらそれはそれで私が悲しいし。ちょっと考えてくれるだけでいいから!』

「うん。ちょっと予定見ながら、スケジュールつけられるか考えてみる」

『本当にありがと! じゃあ私は問題をやるぜ?』

「頼むわぁ。俺は邪魔になるか?」

『んや? せっかくだし、ちょっと雑談にも付き合えや!』

「オッケー」


 寝るまでの間、委員長としばらく雑談を楽しんだ。

 話をそこそこしたのに、俺が解き進めるのに苦戦した基本問題をあっさり終わらせた。

 早速、助けてくれる委員長の頼みを断ることはしたくないし、凛ちゃんとの勉強会はおそろかにすることは絶対にすることはあり得ない。

 ここからはもっと自分の動き方と、時間の使い方を最大限考えていくことになる。












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