第14話

 来週から勉強するための場所の目処もついたので、帰ることにした。

 スマホを確認すると、妹からメッセージが届いている。


 ―どこで道草食ってんだー! 罰として6枚切り食パンをいつものパン屋で買ってから帰ってこい!―


 今週はまだ遅くなる予定になっていないので、寄り道していると思われている。

 でも本気で怒っているわけではなく、何か用事がある事を察してくれて、家事を進めてくれているからこそのオーダーだろうし。

 本当に頼りになる妹である。


「ちょっと寄り道するけど、大丈夫?」

「はい! どこへ行くんです?」

「帰り道の途中にある、商店街の中のパン屋」


 まだ平日も、親が料理を作ることが多かった頃は、何でもスーパーでまとめ買いだったのに、俺と妹が料理をしだしてから、こだわりが増えた。

 パン屋は流石に専門であるだけに、食べると美味しいことに気がついてからは必ずパン関係は別に買うようになった。

 商店街近くの駐輪置き場に自分の自転車を駐めて、商店街の中に入る。


「平日なのに、人が多いですね」

「夕方だし、金曜日なのもあるかな」


 良くも悪くも、よくある感じの商店街で人情味もあるけど、こんな時間から飲み屋で酔ってるおっさんもいる。

 ……そういうだらしない大人を見ると、凛ちゃんは連れてこないほうがいいかもと思ってしまったが。


「最近は足を運んでいませんでしたが、その間に随分と変わりましたね。昔からあるお店ばかりのイメージでしたけど、カフェとか出来てます」


 凛ちゃんの言うとおり、学生がよくお世話になるコーヒーチェーン店が入っていたり、新旧が融合しつつある。

 そんな状態で、うまく調和の取れている商店街は珍しいかもしれない。

 ガラス張りで中の様子が確認できるが、おそらくカップルらしい二人組も何組か見られる。

 遥輝や幸人はこういうところに、彼女と来るんだろうなぁ。

 未だに俺にとっては、友達としか来ない場所でしかない。


「……たまにはこういうところに来て、勉強してもいいですね」

「そうだな」


 学生のお財布事情なので、頻繁に来る事はできないが、たまにはこういうところに来て勉強するのもいいかもしれない。

 コーヒーチェーン店を通り過ぎて、目的のパン屋に到着。

 中に入ると、香ばしい香りに包まれる。


「あら、斗真君! 学校帰り?」

「はい。妹に食パンがなくなってどうにもならんから、途中に買ってから帰れと言われまして」

「相変わらず、妹思いのいいお兄さんねぇ」


 すっかりパン屋の店員の人とも、顔馴染みになっている。


「……一緒にいる子、もしかして彼女さん? とっても可愛いけど!」

「こんにちは」

「違いますよ」


 妹の友達でとか色々と説明すると、勝手に尾ひれが付いて広がるので、簡単に否定だけしておく。

 トレーに、袋に入った食パンを乗せる。

 そして、並べられたばかりのアップルパイを一つだけ取った。


「じゃ、今日はこれで」

「買食いってやつね! よかったら、そこのお嬢ちゃんの分もサービスするけど?」

「晩飯も近いんで、一つで大丈夫ですよ」

「じゃあ、このアップルパイ分はサービスしたあげる。二人で仲良く、ね?」

「分かりました。ありがたく受け取ります」


 袋に入った食パンと、紙に入れたアップルパイを手渡しでもらう。


「ん」


 そしてそのアップルパイを半分にキレイに割って、凛ちゃんに手渡した。


「私にも……ですか?」

「試験も頑張ったしな。買食いという良くないけど楽しいことを教えてみようと思って」

「買食いも何も、私何も払ってませんけど……」

「細かいことはいいの! 放課後の帰りに、こうして甘いものとか食べるのが楽しいのよ!」

「はぁ……」


 いまいち納得出来ていないといった感じだが、受け取ったアップルパイを控えめに小さくかじりついた。


「おいひぃです」

「だろ?」


 人通りの多い商店街の中を歩きながら、アップルパイを頬張る。


「中学じゃ校則きつくて、出来ない事だったからな」

「ですね。見つかったら、すぐに生徒指導の先生に呼び出されちゃいます」

「高校でも良くないことだとはされてるけど、怒られることでもないからな」

「なんか悪いことしてる感じがして、ドキドキしますね」

「多少は悪いことも教えてしまうかと思ってな」


 中学の頃からいつもずっと真面目に過ごしてきた彼女には、少しぐらいこういうことを知ってもいいのではないかと思う。

 こういう機会にでも、一度経験しないと今後友達とかに誘われたときも戸惑うだろうから。

 お互いにアップルパイを食べ終わったあとも、商店街の中を散策した。


「こんな物も売ってるんですね……!」


 久々に練り歩くのが本当に新鮮だったようで、一つ一つの店に視線を奪われる凛ちゃんは丸で小さな子供のようだった。

 今までは、いつも家の中か学校の中で関わることが大半だったので、そんな純粋な反応を見せる彼女に、俺自身も新鮮さを感じながら微笑ましくなった。

 結局、お互いに散策を長時間楽しんでしまって、帰ったときには流石に妹に怒られてしまったが、こんな時間があってもいいなと思えた。




















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