第12話
夜には、今日の昼間の流れそのままに委員長とメッセージのやり取りをした。
特に何か話さなければならないことがあって交換したわけではないので、ただ雑談するだけの形になったが。
結局、今日ずっと話題になった制汗剤の件を話すと楽しそうな反応は見せていた。
今のところ、異性だからといって友達という枠組みである以上は、特別感は感じない。
ただ、委員長がフレンドリーであるために、調子に乗ってあんまり突っ込んだことは聞かないように気をつけないようにしなければならない。
なお委員長からは、『かつて彼女はいたかとか』、『気になる人はいるか』いきなり根掘り葉掘り聞かれたけども。
正直、委員長とか遥輝や幸人にこういう突っ込んだことをある程度バラしておけば、勝手な噂が広がっても影響力のある三人が訂正してくれそうなので、特に隠す必要もない。
そんなふうに考えているので、委員長の人柄も考えてあちら側から聞かれたことは、全部正直に答えた。
……過去に付き合った話の一つでもあれば、隠したいこともあるんだろうなぁ。
―さっきから私ばっかり聞いてるけど、斗真から私に聞きたいこととかないの?―
―うーん、あんまり突っ込んだことを男側から女の子に聞くのは抵抗あるね。さっきまでみたいに逆パターンならありだと思うけど―
―別に何でも聞いてくれていいよ?―
「うーん……」
ここまで言われて、それでも聞くことを渋るのも逆にイメージが悪い。
何か他に絶妙なラインの質問があればいいが、そんなに話し上手なら、とっくに彼女が出来ている。
「ここら辺が異性の相手と話すのが難しいんだよなぁ……」
同性の友達なら安全ラインでも、異性となると途端に危険ラインって感じがする。
同学年ってこともあって、ある程度お互いのことと取り巻く人や環境も理解出来ているのも、聞きにくさを更に強めている。
「聞いてみるかぁ……」
委員長の性格なら驚いて一歩引かれても、すぐに『ありえんから絶交』とか『もう生理的に無理』とかは言われないだろうし。
もし引かれたら、最大限の誠意と適切な距離感を持って信頼を取り戻そう……。
―言いにくかったら、ごめんだけど。気になると言えば、一時期付き合って話が出てたから、そのことについては気になるけど?―
「もうちょいマシな聞き方は出来んのか……」
自分で文章打っておいて、嫌になる。
この保険をかけるような最初の一言が、絶妙にキモくて仕方ない。
世の中のモテる男子は、どうやってこういう内容の話になったときうまく進めてるんだろ。
―ほんほん、なるほどね! 斗真でも、その事が気になりますか!―
―なる! 昨日の朝の話からすれば、相当ハードル高いだろうし、どんな相手だったか気になるね―
言い方からして、嫌というほど他の男にその真意を訊ねられたことが分かる。
―別に斗真には話してもいいかぁ。他の人にはてきとーに誤魔化して言わなかったんだけど。学習塾でクラスが一緒だった人だね―
―ほー、ってことは校外の人?―
―そそ。その頃、私の友達の周りでみんな彼氏が出来始めちゃって、その流れに乗らなきゃ駄目なのかなって焦った感じかなぁ―
―流れ?―
―んー。こんな話するのもあれだけど、やっぱりみんな彼氏いるってなると、自分もいないとまずいかなぁみたいになっちゃって。でも、そんな中途半端な気持ちだったから全然続かなかったけど―
―そんな真実があったのね―
―同性にこんなこと話すと何様?ってなりそうだし、異性に話すとどうなるか分からないし、少なくとも噂は間違いなく広められるから黙ってた。斗真は、その辺り信用してるからよろしく―
―それはもちろん。人気者の委員長でも、悩み事がそれなりあることが分かって、生意気だけどちょっと安心した―
この真実を聞いただけで、みんなのまとめ役で人望のある委員長でも、交友関係には慎重に考えながら過ごしていることがよく分かった。
委員長の付き合った理由も、他の人が聞けばありえないような理由に聞こえる人もいるかもしれないが、俺は十分過ぎるくらい納得出来た。
基本的に男子は、モテるモテないで彼女の有無が決まるかもしれないが、女子は違うような気がしているからだ。
女の子同士のグループで、彼氏がいるグループといないあるいは作らないグループがはっきり分かれていることは珍しくない。
その流れに乗らないと、グループの会話やノリについていけない。
男にはない女子特有の難しさかもしれない。
純粋に好意を向けていた塾の男からすれば、悲しい結果になったかもしれないが、それでも委員長と付き合った唯一の男なので、自信を持って欲しい。
―そりゃありますで! 結局その一件で懲りちゃって、ちゃんと自分のスタンスを貫けるようにしようってなったんだけどね―
―委員長はやっぱりすごいわ。そのスタンスを貫く今でも、友達たくさんいるし―
―うむ。まぁ分かったことは、なぁなぁでやり過ごすのは良くないね、うん―
「うっ……!」
最後の一言は、今の俺にはクリティカルヒット過ぎる。
―言えてスッキリしたかも。本当に誰にも言えなかったから。聞いてくれてありがと―
―いやいや、貴重なお話でしたわ―
―幻滅されるかと思った。こんな理由で初彼氏作ってましたなんて―
―むしろ、人気者も人並みの悩みを持ってることがわかって親近感が湧きましたよ?―
―女の子が悩み持ってることで、親近感が湧いて嬉しくなるとかひどいやつだな!―
最初こそは、突っ込んだことを聞くことはどうなのかと躊躇っていたが、聞いてみてよかったかもしれない。
自分の事も隠さずに話してくれる委員長には、何か悩んだことがあったら、話してみても良いのかもしれない。
―ま、私の秘密を知ったんだから、学校で何かあったら、手助け要求するからね?―
―出来る事があれば、やりますわ―
出会ってから数カ月。
本格的に仲良くなるまで時間がかかったが、また一人信頼出来る友達が増えたように感じた。
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