第11話

 そんな微妙な雰囲気もあって、お互いの口数はめっきり減ってしまったが、そのまま分かれ道のところまで一緒に帰った。


「ただいまー」

「兄さんお帰り……って、何その匂い」


 家に戻ると、妹にも委員長にかけられた制汗剤の匂いに突っ込まれた。


「まだそんなに匂います!?」

「すごくするわけじゃないけど、そりゃイメージに合わない匂いしてたらびっくりするでしょ。ついに女でも出来た?」

「なんつー言い方するんだ」


 遥輝といい、妹といい、言葉遣いが悪すぎる。

 どこからそんな悪い言葉を覚えてくるのやら。

 男の遥輝ならともかく、妹にこんな嫌な言い方をしてほしくないが。


「意味は一緒だから問題ないでしょ。いくら兄さんでも、そろそろそういう人が出来てもおかしくないかなって思ったんだけど」

「友達の子にイタズラでかけられただけ。っていうか、まだ高校生なりたての若造に言われたく無い」

「学年的に一年しか変わらないのに、何を偉そうにしてるんだ。っていうか、私は彼氏いるから」

「はぁ!?」

「いやいや、別に驚くようなことでもないっしょ。凛みたいに家に呼ぶわけでもないから、言う必要も無いし」

「ま、まぁそうだな……」


 妹は家族の俺からの目線ではあるが、普通に容姿は端麗だと思う。

 委員長とはまた違うけど、性格も明るくてフレンドリーだからモテそうかと言えばモテそう。

 しっかしそんな雰囲気を一切見せていなかったので、さらっと衝撃発言をしてくれたものだ。


「まぁ高校が違うから、いつまで冷めずに続くか分かんないけど」

「その発言が出てるお前自身がすでに冷めてね?」

「かもしんないー。今、忙しいのに今度いつ会うかうるさいし」


 交友関係を築くことは容易いといった妹だが、あんまり恋愛的な興味は薄いイメージはある。

 そんなイメージ通りと言ったところか、もはや他人の事のように話しているので、別れそうな雰囲気がする。

 ……うちの妹は、付き合ったら振り回すだけ振り回していくやつかもしれない。


「そのお前の彼氏って、俺の高校にいるの?」

「ううん。受けたけど、落ちて滑り止めの私立に行ったからいないよ」


 でも、これくらいライトな感覚のお付き合いしている方が、個人的に良いような気もする。

 何だかんだ、高校に入ってから男女関係の話がエグくなってきているので、このレベルの話だとストレスフリーで悪くない。

 ……これで凛ちゃんと同じように家に連れこもうとしてたら潰してたけど。


「ま、別れたらまた高校で気が合って仲良くなれる人と付き合えばいいし」

「もう手慣れとるな……」


 もはや妹は、俺より1段階上に行っている。


「ちなみにそのイタズラしてくる人は、可愛い人とかじゃないの?」

「可愛いよ。こんな評価の仕方はよろしくないが、少なくとも学年で5本の指には入る」

「マージで? いたずらに関しては、誰にでもそういう事する可愛い子ぶる感じの人?」

「うーん……。分からん! でも、ぶりっ子とビッチって感じではないなー」


 確かにフレンドリー。

 でも、あそこまで突っ込んでいるとこを見たことがあるかと言えば、そんな事もない。


「お前みたいな立ち位置だけど、ベクトルが違うんだよなぁ」

「面倒くさい言い方だなぁ。もうちょっと分かりやすく!」

「明るい性格だけど、お前みたいな感じじゃないってこと!」

「へぇ、いいじゃん。口説いてみたら?」

「話を続けた俺が馬鹿だったわ」


 わかりやすい説明を求められて、何か有益なアドバイスでもくれるのかと思ったら、遥輝ばりにクソ意見しか出てこなかった。

 そもそも、負けたくないも思っている妹からのアドバイスを期待する時点で、俺も終わってるか。

 まわりからはこうして言われるが、委員長とはどう考えても友達って感じなんだよなぁ。


「えー、普通はアピールするくない?」

「いやいや……」

「うーん、信じられん。……あ。もしかして兄さん、凛見てるからじゃない?」

「な、何が……!?」


 急に妹から、俺と凛ちゃんを結びつけるような発言が出た。

 一瞬で、体全身に嫌な寒気が走った。


「いや、だってさ。凛のレベル見てるから、悪い意味で可愛い女の子見慣れちゃって、落ち着きすぎてるんじゃない?」

「あー、なるほど」


 セーフ。残念ながら、可愛い女子を見慣れるということはない。

 未だに凛ちゃんにじっと見られると、心臓が保たない。

 多分、委員長とは3秒も目を合わせられない雑魚である。


「普通、その5本の指レベルの子と仲いいなら、男ならアピるでしょー。それも出来ないとか、男としてどうなの?」

「どんなにお前のほうが進んでても、男の事についてだけは語られたくねぇよ」


 割と思考が男に近いような気がするが、だからといって妹にダメ出しはされたくない。

 というか、そういうがっつきが嫌だと委員長は言っていたんだけど。


「本当に贅沢者だねぇ。凛だけじゃなくて、そんな可愛い人と学生生活か。彼女が出来ない位で帳尻つけとかないと、割に合わないか」

「かもしれんね」

「ま、でもね」


 妹はニカッと笑いながらこう言った。


「それくらい兄さんが落ち着いているから、凛と仲良くなり始めていることにも、まぁ大丈夫だなって安心出来るからね。サポートよろしくだよ」

「……了解だよ」


 基本的にディスりしかしないのに、こういう時だけは厚い信頼をしてくる妹。

 凛ちゃんと言い、こいつもやっぱり俺のことを無駄に信頼してくる。

 こういう風に頼られると、いつもは生意気なのに、こういう時だけ可愛らしいやつだと思ってしまう。

 ただ、凛ちゃんが向ける俺への信頼と、妹が俺へ向ける信頼は一緒なようで、ベクトルが微妙に違う。

 妹に素直に打ち明けられなかったことによって生じた微妙なズレが、ここまでのことになるとは。

 いつも思うことだが、難しい問題にしてしまったという後悔を感じずにはいられなかった。


「……晩飯の準備でもするかぁ」

「ん、今日はよろしくー。どうせ来週からは、私が準備することになるんだし」

「お前、部活は?」

「やるけど、お気楽なとこだし。多分、兄さんよりも先に帰るから。家事の事は気にしなくていいから、ちゃんと凛のサポート!」

「分かった」

「凛の成績下げたら、兄さんのことゴミ以下の扱いにするから」


 何だかんだ、未だに仲良くしてくれる妹にゴミ扱いは流石に堪える。

 友達の事が関わっているとはいえ、とても協力的な妹の期待にも応えねばならない。
















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