第5話
始発の電車に乗り込んだ。
薄暗い空が少しずつ蒼に染まっていくような時間帯。
ひとは自分しか乗っていない電車の中、不意に向かいの席に誰かが座った。
フリフリの多く着いたゴシックな服、ピンク色の髪に金色の瞳、雪のような肌をしたその人―――久遠廻音さんだった。
「よろしいですか?」
些々はこくんと頷いた。
『発車いたします』
入り口の扉が閉まり、電車が揺れだした。
知らない景色が窓辺で流れていく。
「お二人の死を確認いたしましたわ」
「え?」
「貴女が殺害したお二方です」
「……どうしてそれを」
「ワタクシは死の蒐集人ですから」
「……」
意味はよく分からなかったけれど、多分、この人は全部知っているのだろうなという確信があった。
「貴女には二つの選択肢がありました。警察に自首するか、このまま逃げるか」
「……」
「どちらもうまくいくと思いますわ。貴女という存在は秘匿される情報が多かったですから」
窓の外を、ずっと見ていた。
蒼く染まっていた景色が夜明けとともに、少しずつ白んでいくようだった。
ガラスに写る自分越しに、代わる景色を見ていた。
短くなった髪で見る世界は、灰色のものではなく、色彩が綺麗だった。
「わたし、まだ、何も知らないんです」
「と、言いますと」
電車が揺れる。乗り物が揺れるということは世界そのものが揺らぐような感覚がする。
「まだ、わたし何も知らない。何も決めてないから」
多分。悪いこととわかっていても、そうしたのはそのせいだ。
「そうですか。ワタクシは別に構いませんが、後悔があるのでは」
後悔、そうだ。わたしは北条くんを……。
不意に、久遠さんは携帯を差し出した。すでに番号が入力されている。
「警察組織につながっています。なお発信源が特定されることはないのでご安心を」
些々はそれを手に取った。
二人の人間を殺したことを些々は告げた。
友人であった北条慧扠を脅迫して死体遺棄に協力させたとも伝えた。
それだけを告げると、些々は電話を切った。
「北条さんに悪いようにしないことはワタクシからも言っておきますわ。ワタクシ、パイプが結構あるので」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ではワタクシは次の駅で降りますね。あと、これを」
久遠さんは些々に封筒を渡した。中にはずっしりと重みがあった。
「アルバイト代ですわ」
「……こんなに、ですか?」
「ええ、手当も多くありますが、そこはワタクシからのお小遣いということで」
「あの、どうしてこんなに?」
自分によくしてくれるのか?
「ま、オプションということで。詳しいことは話せないのですが、それくらいは致しますわ。……と、まもなく着きますわね。貴女は終点まで行くのでしょう?」
「はい」
「では裂咲些々さん。最後に」
久遠さんは優雅に礼をしたあと。
「引き続き、良い夏休みを」
といって、電車を降りた。
やがて扉が閉まり、彼女以外にだれもいない列車が動き出す。
彷徨うように、揺れていた。
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