第17話 悪魔

 鉄塔中央、展望台を貫く柱に激突した厨二病君はゆっくりと立ち上がった。


 「っ、ひどい」


 立ち上がった厨二病君の顔右半分は遠目で見てもわかるほどにへこんでおり、顔中血まみれ、右目は完全につぶされ潰され頭蓋骨も陥没していた。


 いくら厨二病君に尋常じゃない回復能力があっても、回復する前に即死級の攻撃を受けたら…………


 「いきますよ」


 「ま」


 私の待ってという声が届く間もなく厨二病君の前に移動したトノサマは拳を振り上げていた。


 まだ厨二病君の顔は陥没したまま、今あの攻撃を受けたら確実に厨二病君の頭蓋骨が粉々にされて脳が活動を止めてしまう。


 「厨二病君」


 もう一回、もう一回だけ奇跡起こって。


 そんな私の願いは当然のように叶わなかった。


 「覚悟」


 今日の朝も聞いた肉をミンチにするプレス音。その音が空気を揺らし、空気を伝って私の鼓膜を振るわせた。


 その音を聞いた私は地面が揺れる感覚に襲われた。


 私の目に映っているのは厨二病君の顔左半分、そして厨二病君の顔右半分にめり込んだトノサマの巨大な拳。


 その光景を目にした私は地面の揺れに耐えきれず、膝から崩れ落ちてしまった。


 「そんな、厨二病君……」


 喉から自然と零れた声はすぐに空気に溶け消えて行ってしまった。


 私の声は厨二病君にもトノサマに届かず、トノサマゆっくりと厨二病君い埋まった拳を引き抜くと再び拳を後ろに引いた。


 「ふう、念のためにもう一度殴っておきますか。」


 明らかに決着はついていたが、それでもトノサマは確実に厨二病君の整った顔を破壊しようと再び拳を叩きこもうとした瞬間


 「な」


 今まさに厨二病君にとどめを刺そうとしていたトノサマの腕が一瞬で切り飛ばされてしまった。


 「え、うわ」


 切り飛ばされた腕は私の目の前まで飛んできて、あっという間にその場に青すぎる血の池をつくってしまった。


 トノサマの方を見るとさっきまであったたくましい右腕はどこにもなく、噴水のように青い血液が噴き出させていた。


 「何が起こったの」


 私が困惑している間に、トノサマの体からは血液がどんどんあふれ出していき、さっきまで陽炎を発するほど真っ赤に火照っていた体が元のコケ色に戻っていった。


 「なん、と」


 どんどん青ざめていく自分の体を気にせず何かを睨みつけるトノサマ。


 私もその視線を追うと、そこには


 「厨二病君」


トノサマに殺されたと思っていた厨二病君が立っていた。


 つぶされたはずの厨二病君の顔は完全に元に戻っていた。その代り右腕にあった者と同じ黒の紋様が顔の右半分にも浮かび上がっていた。


 「が、がが、ががががががががががががが」


 のこぎりで木を切っているように歯切れの割る音が響き渡った。


 「へ、何」


 私は最初それが厨二病君の笑い声だと言うこと気づかなかった。


 「あなたは、一体」


 トノサマの前に立ち、笑い声を上げる厨二病君。いつも無機質でお人形さんのように表情のなかった厨二病君の初めて見る笑顔、それは冷え切った私の体をさらに凍りつかせるほどに残忍なものだった。


 「虫けら風情が、よくここまで追い込んだものだ。誉めてやる。」


 厨二病君の口を動かして発せられる声は無機質なイメージのある厨二病君から考えられないほど悪意に満ち満ちていた。


 「だが、もうここで終わりだ。こいつを壊されては俺も困るのでな」


 トノサマを睨みつける厨二病君から発せられる壮絶な敵意。


 離れている私ですら冷や汗が流れ出るくらいに強烈な敵意はトノサマに死の恐怖を思い出させた


 「っ」


 すぐさま目の前にいる謎の生物をぐちゃぐちゃにつぶそうと拳を振り上げるトノサマ、


しかし、厨二病君?はトノサマが手を振り下ろすよりはやく手を横に振った。


すると、


 「が」


トノサマの首が切り飛ばされた。


 切り飛ばされた首は展望台の上をころころ転がり五百メートル下の地面へ


 残された胴体は噴水のように青い液体を噴き上げ、もう封鎖された鉄塔上空に七色の橋を架けていた。


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