137話:重要人物との出会い
馬で平野を駆けていく。馬に乗ったのは久しぶりな気がする。
光安、拓海、藤吉郎が稲葉山城から明智城へと向かう。明智城は長山城とも呼ばれる山城だ。明智氏により建造されたから明智城。わかりやすくて良い名前だ。現在の城主は言うまでもなく目の前にいる明智光安という男。
脳内辞書を検索してみるが、あまり彼の事績はヒットしない。『明智光秀の叔父である』こと、『史実の長良川の戦いで明智城が落城。その際に一族らと共に戦死した』こと。これくらいだろうか。
ちなみにこの時の光秀は逃走していたらしい。そこから浪人になり……まあ光秀の人生を話すのは一旦やめよう。
明智城。馬から降りた頃。
「改めまして申し上げます。ここ明智城主、
「あ、はい。ありがとうございます」
やけに丁寧な人だな、と思いながら応える。「それでは適当な者を付けて案内でもさせましょうか」と光安が言う。そりゃそうだ、彼も斎藤家でそれなりのポストにいる人間のはず。俺一人にそんなに時間はかけられまい。
「まあ仕事は少し慣れてからで良いでしょう。適当にこのあたりを散策でもいかがか」
候補がいなかったのかそう話を切り返してくる。まあそれもそうだ。美濃国観光というのもいいな。正直尾張の風景と大差はなさそうだが。
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その翌日。日光を浴びながら軽快に出かける。特別に栄えた様子はないが所々に民家や田畑が見えて、那古野や清州の郊外と光景は変わらないよう見える。もう少し北に行って越前国の朝倉義景あたりに仕官すれば雪国の景色も見られるだろうか、そもそも美濃国も今拓海がいる場所からもう少し北、あるいは東に行けば山がある。そこらなら多く雪も降るだろう。
逆に西へ行って
そう考えると行ってみたい場所や会ってみたい人物は多くいる。こればかりは観光気分、と言われても仕方ないがやってみたい。仕方ないじゃないか。いや、自省せねば。
「……ん?」
ふと通りがかった家から会話が聞こえてきて、それが耳に入ってきた。
「この漢方で……となり、腹下しが……」
漢方? 医者だろうか。それなら自宅診療か。目を向けるとおっさん一人に自分と同じくらいの歳の若者。どちらも男で若者の方は……助手だろうか。それに患者と見られる人物が会話をしている。
「最近体の調子も良くなってきましてな!明智様のおかげです!」
患者の方はもう年老いた男性。それよりも「明智様のおかげ」という言葉が耳に入った。
これは明智光安が明智城領を治めているから平和、という意味なのかそれとも――
家の前に何の気無しに突っ立って診察が終わったらしい医者と助手の会話を聞いていた。もう帰るのかだんだんこっちに近づいてくる。
「やはり凄いですね、明智様は。私もあのように的確に薬を出せるようになりたいものです」
「別に特別なことはしてないよ」
「いえいえ、もう
「明智光秀!?」
あ、やばい。しくった。そうだ。なんでここまで忘れてた? 言ってたじゃないか。拓海の脳裏にいつかの話が蘇る。
『明智光秀の叔父、明智光安に会って光秀は現在、医者をしているという情報をゲットした』。
美濃国に帰蝶と対面しに行った信長が話していたことではないか。拓海自身もすっかりと抜けていたことだった。信長と帰蝶の政略結婚は拓海がタイムスリップしてすぐの頃であったから都合六年ほど前の会話か。いや、思い出せるはずもない。
「お前、明智様になんの用立てか」
「こら、やめなさい」
即座に横にいた助手(仮)に首根っこを掴まれる。あれ?この光景前にも見たような。
医師、もとい明智光秀にその手を外されて俺の気道は自由になった。
「それで、何故」
光秀もそう問いてくる。
「ご無礼失礼しました。昨日より斎藤家、もとい明智城にて雇われている磯貝拓海と申します。突然お声がけしてしまったのは聞き及んでいた名前で……すみません、礼節に欠けていました」
明智光秀。間違いなく要注意人物だ。
「磯貝……そうか、織田家の。何故こちらに、と聞きたいところではありますがそれよりもほら、挨拶しなさい」
助手にそう促す。
「み、
少しバツが悪い、といった様子だった。三宅弥平次……脳内辞書には出てこない。本当にただの下っ端なのか、誰か有名な人物の前の名前か。まだ拓海に窺い知ることはできなかった。
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