123話:② 彼は誰時
信長の出陣に付き従った人数は約9000人。正確に言えば、同時に9000人が清洲城から出発した訳では無いがこの織田弾正忠から出した合計人数は9000人ということになる。
出陣に従ったのは俺を始めとして勝介や恒興、勝家、信勝……とにかくオールスターと言ったところだ。俺も隊を率いている。といっても規模は小さい。200〜300か。色んなパターンが考えられるので清州に
村井貞勝はあまり俺も直接話したことは無いが、名前走っている。織田に仕える文官の中でもトップレベルの地位にいて、戦に出るという話は全くなく、政務に長けている人だ。
鉄砲も沢山持ってきた。最近……といってももうかなり前だが、最近入った滝川一益も従軍してると思う。
ひとまず次の予定は緒川城だ。緒川で水野信元と現状を報告、情報交換を行う。
「まあ、まだ戦になる訳ではないしゆっくりと行けば良いでしょう」
そう欠伸をしているのは利家。後世に伝わっている肖像画からすると、何となく面長で気だるげそうな人物に見えるが、今は勿論若いので筋肉がかなり着いている。歳自体は俺より下。年齢的には少し未熟だが、戦働きとなれば話は別だ。実績もかなり聞いている。色眼鏡なしに、将来出世しそうだなと思える人物だ。
なんかやたらに言葉遣いが丁寧なのはなんか気になる。年齢か?
「まあそれもそう。それにしても、三河までの出陣は初めてで少し緊張してる」
「拓海殿、三河は初めてですか。私もあまり行ったことは無いが……尾張と比較すると少し寂れた土地という印象を受けます」
「へー」
三河武士は屈強だ、なんて話はよく聞くが土地が寂れているという話は初めて聞いた。尾張はずっと平野で三河は山が多いからだろうか。"濃尾"平野なんて言うもので、美濃や尾張のあたりは特に肥沃な土地とされている。利家の主観も入っているだろうが、面白い話だ。
「さあ、水野信元か……最後会ったのいつだ?」
「私は無い……うん、無いですね」
あれだ。広忠と信秀が同盟を結ぶという事で、会見の場を信元に用意してもらった。あの時以来だ……何年前だ? 分からん。でもよく考えたらあの時を最後に家康にも会ってない。今は忠康と言うんだったか。史実だと元信とか元康なんだけどなあ。"元"が今川義"元"の元だから流石に無理だな。
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「織田殿! よく来てくださった!」
信元は信長を盛大な歓迎で迎えた。と言っても何かが用意された訳では無いが、信元の安堵したような表情はあった。
「水野殿もお久しぶりです」
信長も馬から降りて一段落しながら信元との応対を続ける。
「このような事態、水野家は御二方……織田家と松平家を支援したいと考えています」
「本当にありがたいです」
そこで信元の目の色が変わった。
「本当に唐突で申し訳ない。実は折り入ってお願いがあるのですが……」
これが本命か、とその場にいた全員が察した。
知多半島。尾張国に着いている見た目がしっぽのような地形。そこでは何度も言うように佐治氏という独立勢力が力を保っている。信元も何度も和睦を試みた。一度は成功したが、松平の今川離反や今川の佐治工作などの過程を経て今のような勢力関係に落ち着いている。
そして、その大野城を本拠とする佐治は東三河での挙兵を見てそれに同調した。狙い目は常滑城。水野家の人間が守っている城だ。
「常滑の同族は正確に言えば我々に帰順している訳ではありませんが、良好な同盟関係が築けている者同士です。しかし佐治は少し脅威がありまして」
「脅威、とは」
「水軍です」
この時代は水軍と言っても大砲なんて技術は無いから大きな驚異にはなり得ない。まあしかし、船の上から弓矢を打つことは可能だし優位に立たれるのは確かだ。
「ご助力を願います」
「……因みに今夜、この城に数千人が泊まることは出来ますか? 周辺でも構いませんし。東三河の方にも兵をよこす必要がありますし」
「え……ええ! 勿論です。数千人となりますと野宿になる者も出てくるかもしれませんが……」
「大丈夫です。ですが出来るだけ、屋根の下で寝れるようにして欲しいです。まあ雨は降らなさそうだから空の下でも寝れるでしょうが」
そう約束を取り付けた信長は感謝の言葉を伝えて、すぐにそばに居た一号に伝える。
「清洲の貞勝に伝言。今すぐ信賢に緒川に援軍を出すように伝えてくれ」
「承知しました!」
信賢の出せる兵は、規模感で考えると何となく1000くらいか。まあ佐治への援軍には丁度いいくらいだな。ふと信元に目をやると少し強ばった笑顔をしていた。
緒川に着いたのは夕方になる少し前。そのまま信長はその地で軍議、というか報告を行った。
「今後の方針は一刻も早く三河に入ることだと考えている状況かな」
「しかし9000の兵を率いて入るには少し遅すぎませんか」
信勝にそう突っ込まれる。夕方と言っても日が暮れると順調な行軍はできない。
「でも俺としては今日中に竹千代に会っときたいんだよな。だから疲れた者とか着いてこられる自信の無い者は明朝に緒川を発ってもらう」
あ。どういう話になるのか分かった。
「今から
何かを思い出すような面白い話だ。
「よし、俺は行く」
そう意気込んだ。
岡崎までの道程は端折る。何故かと言うと誰とも話さず、ただ前の人を追っていく。そんな行軍だったからだ。ただ言うとするならば、疲れた。集中力ももう限界だ。
着いてきたのは結局2000か3000か……もうちょい居るか? 全員馬に乗ってる訳ではないから皆走れるんだな、と感心する。
とにかく。とにかくだ。やってきた。三河国岡崎城。
そういえば戦場には遭わなかったが、多分戦場はもうちょっと南にあるな。街並みも利家が言っていたほど田舎という印象はない。どちらかと言うと活気づいている。それに、一つ大事なことを思い出した。
「織田信長殿。お久しぶりです。松平竹千代改め、松平次郎三郎忠康。前もって言っておりましたが、共に今川義元を三河から追い出してくれませんか」
俺は一回、岡崎に来たことがあった。信元と広忠の会見の間、抜け出すようにして三河に行って岡崎観光をした。あの時は忠康は竹千代だったし信長は今みたいにしっかりしてなかった。
光った信長の目が忠康を真っ直ぐに貫く。
「織田三郎信長。全力で手伝わせていただく」
信長はもちろん俺と話す時はまるでクラスメイトのような柔らかさで話をする。何となく、信秀の横でやっていた外面の態度もいつの間にか板についている。
いつからだ?
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