3話 : 団子屋
信長の後を追って城門をくぐり抜けるとまさに中世の町並み、と言うような景色が広がっていた。屋根は瓦で木造の建物がスタンダードで、それぞれの大きさはまちまちなものの、城門から真っ直ぐ街道が通っている脇にそんな建物が並んでいる。時代劇や映画村なんかにそのままありそうな風景だ。若干整備がされていないところが余計にリアルっぽい。
「マジじゃん」
現実離れした光景に言葉が出ない。信長はそんな俺の先を行きながら手招きをする。彼が指さしていた所を目で追うと、座るところが用意されていて同じく着物を来た人達が団子を頬張っている。なるほど、さっきのはあそこで買ったのか。
「もうちょい食べる?」
「じゃあ、食べるか」
落ち着いて話がしたいらしい。さっきちょっと食べたせいで更に腹が減ってきた。だから誘いに乗ることにしたのだ。
「ホントに戦国時代なんだな、ここ」
店の前を通り過ぎていく往来を見ながらまた団子を食べる。ポツポツと刀を携えている武士が目の前を通って行ったのが現実を突きつけてきていた。
「俺も最初は信じられなかった」
「で、何で現代日本人が信長になってんの」
一番気になるところだ。まさか生まれた時からずっと信長でした、なんてことはあるまい。なぜ本来信長と1ミリも関係の無い現代人が信長と呼ばれ、家臣を従えているのか。
「分からん」
「『分からん』?」
「えっと、拓海は何でタイムスリップしてきたか分かる?」
「さっきも言った通り分からん」
「同じことだよ、俺も分からん」
のらりくらりと躱されているような気もするが、ひとまずは納得するしかない。というかそれしか方法がないし先に進まない。
もうちょっと話を続けないといけない。まず重要なのは信長の事情より自分の事情だ。現状確認。
「今は何年?」
「分からんけど
天文……天文……弘治が1555年くらいだから、えっと……
「1547年、8年、9年くらい?」
「へー、そんくらいなんだ」
俺も確証は無いが大体は合っているはずだ。それにしても12月か。道理で寒いと思った。そう意識すると体に打ちつけてくる風が冷たくて体が震える。
信長は団子を食べ終わったらしく、店主に一言言って店から出ていく。俺もそれについて行った。どうやら誰にもバレないうちに城に帰るらしい。
「それくらいの信長は
「そう! 名古屋! 名古屋って言ってた! 凄いな、よく知ってるね」
「違う、名古屋じゃない。『那』覇に『古』いに『野』原だ」
「那古野……ほうほう」
信長の若かりし頃の居城だった那古野城は、後年に跡地が徳川家康の目に留まり名古屋城が建つことになる。つまりこの時代で言えば那古野が正しい。時を進めて現代では、この場所は愛知県の名古屋市になる。細かいことではあるが、まあそういう事だ。
「これはめちゃくちゃ心強い味方が着いたことになるのかも。これから宜しくお願いします」
信長はそう言った。俺も、力になりたいと思っているしいざ戦国時代で生きていくなら高みを目指して行くのみだ。明日俺が生きていけるかもまだ分からないけど、このスリリングな状況に武者震いがした。
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