4話 : メンバー

 その日はそのまま、寝かせてもらっていた部屋に泊まらせてもらった。夜になると気温が下がり、締め切っている空間でも少し寒かった。驚いたのが、この時代ではあまり布団のようなものを使わないらしい。着ていた着物を誘導されるまま脱いで、それを布団のように自分にかけられて、その状態で寝た。どうやらこれが普通らしい。なるほどな、と思いつつも違和感はある。こういう風俗に慣れていくのもタイムスリップという物なのだろう。

 朝起きると、何時かは分からなかったが着物を軽く羽織った。着付け方なんか知る由もないので後で朝ごはんでも持ってきてもらった時についでに頼んでおこう、と決める。家でないところで一夜を明かすのは久々だった。それがまさか時代すら異なる所になるなんて、思いもしない。

 「朝餉をお持ちしました」

 「あ、ありがとうございます」

 

 どうやらここは城の中でも客室に値する部屋らしい。だから何かやって来る人の、俺への対応も丁寧だ。さり気なく着物の着付けをお願いして、その様子を舐めるように見ていたら少し気味悪がられた。これから覚えていかないといけないんだから、これくらいは許して欲しい。

 飯はそんなにイメージと離れていない。米が白くないことと、薄めであること以外は『和食!』と言った感じのメニューだ。こういうのを玄米というのか、名前は忘れたが赤みがかった米。味は現代の品種改良が重ねられたコシヒカリだとかなんとかの白米と比べれば数段落ちるものの、全然食べられる。言うならば、栄養がありそうな味。それに汁物なんかも着いて、いいな。食事は結構鬼門な気がしていたけど、これはいい。うん。


 この時代を生きていくのは、大河ドラマを見るのとは訳が違う。文字通り命懸けの戦いに身を投じなければならない。ひとまず信長のところで今後の方向性を相談するしかないか。そう思って昨日行った部屋への道程を辿る。

 信長がいるとは限らないが、まあ誰かは来るだろう。それから信長に取り次いで貰えば良い。

 「……ん?」

 部屋の中にいた人数は六人。一人、奥に構えていたのは信長だった。ちょうど話そうと思っていたので都合が良い。もう一人は昨日俺を案内してくれた男の人、林秀貞だ。あとの4人は、知らない。視線が一気に俺に注目を集める。

 「見ない顔だな」


 最初に俺に声をかけてきたのは四人の中でも一番若い男だ。威圧的な声だ。

 「恒興つねおき、やめろ、私の知り合いだ」

 それを制止したのは信長だった。恒興と呼ばれた男……池田恒興はそれを聞いておずおずと引き下がった。信長は俺を手招きして近くに呼んでくる。目線を感じながら俺はその座っている5人の間を通る。

 「彼は磯貝拓海という。縁あって当家の家臣となる男だ」

 「え?」

 今日しようと思った話の結論を先に決められていたので困惑する。いや、昨日そう言えば『これから安心』みたいなこと言ってたな。あれは俺が家臣になること込みで考えていたのか。

 「よろしくお願いします?」

 「それで、今後は彼を含めて織田の中心を構成していきたいと思ってる」

 「そもそも誰なのですか、こいつは!」

 恒興の、さっきよりも増した威圧感のある声が部屋に響いた。やけに婉曲的な表現ではあったが、信長が言わんとしていることは俺を織田家の重臣メンバーに含めるということだ。何処の馬の骨ともしれない俺をそんな好待遇に置くことを良しとしていないのだろう。


 「確かにあまり良いものとは言えませんな」

 そう言って愛想笑いしていたのはこの中でも最も歳を重ねていそうな感じのおじさん。いや、この時代の平均寿命を考えると老臣か。

 「詳しい事情はそのうち話す。取り敢えず決定ね」

 「……また勝手なことを」

 もう一人は信長の行動に呆れている様子だ。


 信長は一人一人を俺に紹介していく。俺に高圧的な感じで接してきた若者が池田恒興、一番年長の平手政秀、落ち着いた感じでさっき俺の加入に呆れたのが内藤勝介、一人無骨な感じで何も言ってなかったのが佐久間信盛。そして林秀貞。今の織田家を盛り立てようとしているメンバーだ。

 「じゃあ……恒興は拓海に色々教えるように。宜しくね」

 「え」

 恒興の年齢は俺より二つ下。あれ?まだ小学生? と思ったら13歳らしい。なら、中学一年生か……なるほど。

 恒興は嫌がっていたが、最終的には渋々受け入れてくれた。


★章終わりのお知らせ★

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