03 ENDmarker.
彼が、いなくなった。
数日後。
彼の死を知った。ニュース。大きめの会社の、爆発事故。ずさんな管理が原因で、彼は、それを告発しようとして消されたらしい。彼のできた最期の抵抗は、爆死、だった。そうアナウンサーはしゃべっている。死因なんてどうでもよかった。わたしではなく、彼のほうが綺麗に死んだ。わたしよりも先に。
彼のいない日々がはじまった。
いなくなって初めて、自分は彼に生かされていたのだと、思い知った。
自分で作るごはんは、そんなに美味しくない。
お風呂を沸かすのが面倒になって、シャワーだけになった。
諸々の準備。彼がいないのに、用意をして彼を求めようとする自分がいる。どうしようもない気分。
そんな日々にも、だんだん、ゆっくりと、慣れていった。ドラマや漫画のように彼が生き返ることもなく。ただ、彼の不在に慣れていく。それだけ。
生きている自分が、ときどき、どうしようもなくもうしわけないと思う瞬間が増えた。綺麗にしぬのではなく、いま、しにたい。普通のまましにたいのではなくて。彼のところに行きたい。彼に逢いたい。
踏切。
誰もいなくていい。自分だけがしぬ。それでいい。
普通の人生だったから。彼以外の持ち物が、何も、なかったんだ。なくなって初めて気付いた。彼がいないと、わたし、生きれない。
普通だったわたしの、唯一の、普通じゃない部分。いや、普通を装っていたわたしの、唯一の、普通の部分。
「いま行くね」
踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます