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 彼が、いなくなった。

 数日後。

 彼の死を知った。ニュース。大きめの会社の、爆発事故。ずさんな管理が原因で、彼は、それを告発しようとして消されたらしい。彼のできた最期の抵抗は、爆死、だった。そうアナウンサーはしゃべっている。死因なんてどうでもよかった。わたしではなく、彼のほうが綺麗に死んだ。わたしよりも先に。

 彼のいない日々がはじまった。

 いなくなって初めて、自分は彼に生かされていたのだと、思い知った。

 自分で作るごはんは、そんなに美味しくない。

 お風呂を沸かすのが面倒になって、シャワーだけになった。

 諸々の準備。彼がいないのに、用意をして彼を求めようとする自分がいる。どうしようもない気分。

 そんな日々にも、だんだん、ゆっくりと、慣れていった。ドラマや漫画のように彼が生き返ることもなく。ただ、彼の不在に慣れていく。それだけ。

 生きている自分が、ときどき、どうしようもなくもうしわけないと思う瞬間が増えた。綺麗にしぬのではなく、いま、しにたい。普通のまましにたいのではなくて。彼のところに行きたい。彼に逢いたい。

 踏切。

 誰もいなくていい。自分だけがしぬ。それでいい。

 普通の人生だったから。彼以外の持ち物が、何も、なかったんだ。なくなって初めて気付いた。彼がいないと、わたし、生きれない。

 普通だったわたしの、唯一の、普通じゃない部分。いや、普通を装っていたわたしの、唯一の、普通の部分。


「いま行くね」


 踏み出した。

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