第2話
彼女に死の気配を感じたのは、最近だった。
普通であることが取り柄のような女性で。普通じゃない仕事をしている自分には、とても魅力的だった。彼女といると、自分も、普通の人間になったような気がする。
ばからしい。ただの錯覚でしかない。それでも、彼女といると、気分が安らいだ。
内偵は、自分の精神を切り貼りして行う仕事だった。本来ありえないようなところへ潜り込み、わけのわからない化け物と対峙する。相手が人でないことも多かった。そして、だんだんと、自分も人から化け物の側に落ちていく。
彼女の存在で、なんとか自分を繋ぎ止める日々。この関係も、いつかきっと、崩壊してしまうのだろう。恋愛ではなく、幻想。彼女を見ているのではなく、彼女がまとっている普通というベールを欲している自分。アンバランスでアンビバレンスな心裡。
彼女には、死んでほしくないと、思う。そして、それ以上に、彼女の生と死に関与してはいけないとも思う。普通の彼女が、普通に死んでいくのなら、それをやさしく見守るべきで。普通ではない自分が引き留めるのは、いけないことだと感じるから。
自分にできるのは。ただ、ごはんを作って、お風呂を沸かして、諸々の準備をして、彼女を待つことだけ。それだけ。他には、何もできない。
「ばかみたいだな」
内偵が、佳境に向かっている。たぶん、彼女よりも自分のほうが先に死ぬのだろう。なのに、 考えるのは、彼女のことばかりだった。
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