第137話 転生の真実
リリスの胸に赤く輝く刻印が浮かび上がり、神剣に宿っている金色の雷が走る。
「やったのか⁉」
アランが自分の剣を強く握り込み、覆われている膜に手をついて凝視してしまう。
クレアたちもアランと同じように視線を送っている。
リリスの身体から金色の雷が
まだ若干の緊張は残っているが、クレアたちの顔には笑顔が出始めている。
これでリリスの呪縛からガイアが開放されることを考えれば、そうなるのも自然だった。
「一人で戦ったことは殴ってやりたいと思っていたが」
「本当に一人でやっちゃうなんてねぇ」
「ルイさん」
みんな思い思いの言葉を口にし、エリスは
リリスの黒い身体に、金色の雷が線となって広がり続ける。
赤い目がルイを見て、剣を引き抜こうと剣を掴んできた。
それをルイは左手の剣を下から斬り上げ、右腕を斬り落とす。
そして浮き出た刻印を貫いている神剣を、さらに押し込んだ。
赤い目を見開いてルイを見ていたリリスだったが、刻印を貫いている神剣を片腕で止めることはできずにズブズブと埋まっていく。
リリスに走っている雷の線がさらに速度を上げて枝分かれしていき、赤く輝く刻印が完全に砕ける。
月と輝く星々はいつもと変わらない夜空。
リリスは倒れ、ルイが空を見上げていた。
四人の膜が消え、クレアたちはルイに駆け寄る。
クレアもアランと同じように、一人でリリスと戦ったことに文句と、そして勝ったことの歓びをルイに伝えたい気持ちが溢れていた。
クレアの顔は自然と笑顔になり、少し休ませろとかルイは言ってきそうだと思い浮かんでいた。
「「「「っ――――」」」」
膜が解かれルイの下へ駆け出して少し、四人の足は止まる。
武器を落とし、立っていられずに膝をつく。
絶対的で、圧倒的な力。存在が押し潰されてしまいそうな感覚。
まるで自分という存在をあっという間に満たし、小さ過ぎる存在が砕けてしまうような。
だが、それがクレアたちを押し潰してしまうことはなかった。
クレアの右手には、ルイが持っていた雷を
背後には加護が浮かび上がり、アランたちも同じように加護が浮かび上がっている。
アランとユスティアの手にも神剣が握られ、エリスの手には盾があった。
「そういう、ことなのか……」
「嘘……」
「パナケイア様……」
「――――――――」
クレアの頬に、一筋の涙が伝う。
小さな呻きが漏れているルイからは、神々の加護は消え去っている。
黒い靄が溢れ始め、身体には漆黒に輝く鱗が現れ始めた。
腰にある竜の尻尾を地面に何度も打ち付け、なにかを抑え込むかのように自身を抱きしめている。
「そんな――――これが運命だと言うんですか!」
そこにいるのかもわからない。
この声が届くのかもわからない。
それでもクレアは、叫ばずにはいられなかった。
「こんなの……」
「ルイ……」
クレアたちは加護を受け、同時にすべてを理解した。
ガイアはティアマトそのものである。
リリスを倒したとしても、ガイアではティアマトの権能で蘇ってしまう。
これを止めることができるのが、ティアマトから加護を受けたルイ。
ルイがリリスを倒したことで、ティアマトが権能で蘇ることはない。
だがまだ残っている。
それが、ティアマトの加護を受けているルイであった。
「いつから……いつから知っていたんですか――――」
クレアのなかで、ルイとのことが一気に溢れ出す。
そして印象に残っているルイの瞳が、クレアを締め付けた。
ルイがリリスと戦うことを決めたときには、すでにこのことを知っていたのではないかとクレアには思えた。
それに気づくと、一つの出来事がフッと浮かんだ。
初めてルイとキスをした日。
ルイは女神ティアマトの夢を見たと言っていたのだ。
これが正しければ、ルイはガイアのことではなく、クレアと生きることを選んでいたということになる。
ルイは女神ティアマトと話したあと、エデンに向かおうとはしていなかった。
だがクレアは、ルイがエデンには行くと思っていた。
仲間を守るような聖遺を召喚し、ワイズロアではクレアたちから離れてまで剣を振るっていたのだから。
クレアは何も知らずそんなふうに思っていたが、この結末をルイが知っていたのなら……。
ルイは世界よりもクレアを選んでいたということになる。
自然とクレアの目は、ルイの姿を追ってしまう。
小さく呻き、抗うかのようにクレアの前で苦しむルイの姿。
銀色に輝いていたティアマトの加護は、今はリリスと同じ赤い輝きを放ち始めている。
「他の世界からたった一人で転生させられて、どれだけ戦ってもルイさんだけは変わることがない結末。
こんなの……こんなの、人柱じゃないですかっ!」
リリスがルイの身体で蘇ったとしても、それはあくまで人間の身体。
ルイによって再生のループは止まり、クレアたちがここでリリスを倒せばすべてが終わる。
ルイの転生は、最初からここまで決まっていたことであった。
「私は、ルイさんを死なせるために出会ったんですか――――」
クレアがどれだけ叫ぼうと、それに対する答えが返ってくることはない。
「パナケイア様、他に道はなかったのでしょうか……」
エリスも涙を流して小さく呟き、アランとユスティアは神剣を握り込んで悲痛な顔をしていた。
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