第135話 道
「あれでは、ルイ様のスピードが殺されてしまうのに」
エリスが苦しそうな目で呟く。膜のなかでただ見ていることしかできないことが、ワイズロアのときと似た感情を思い起こさせる。
それを見てクレアが聖遺を振るったが、クレアたちを包んでいる膜が破れることはない。
少し距離はあるがクレアが他の騎士たちへと目を向けると、もうクレアたち以外に意識がある者はいなかった。
魔神が全方位からルイを包囲し、何重にも波状攻撃をしている。
ルイはその波状攻撃のなかわずかなタイミングの差を使って時間を稼ぎ、その間に別の魔神に対処していた。
「――マズイわよ。魔神に包囲を狭められてる」
ユスティアの言葉通り、ルイはほとんど移動する空間を失っていた。
それはエリスが言ったスピードを殺されてしまうことを意味している。
下半分を気にしなくていいとはいえ、空であればもう少しルイにも空間が持てたように思えた。
ルイが目の前の魔神を蹴り飛ばし、後ろからくる魔神を振り向きざまに斬る。
首を落とされた魔神の視線が下からルイを見据え、首と分かれた身体が剣を突き刺した。
「――――っ」
相打ちという形でルイが核を斬り、ルイの腹部を刺した魔神が霧散する。
一瞬完全にルイの動きが止まったところを、魔神が一気に畳み掛けた。
「――! ディバインゲート」
ルイが宙にいた魔神よりもさらに上空に空間転移したと同時に、周囲を光が照らす。
それはエスピトでルイが顕現した神槍。
上から見下ろすルイの視線は、リリスの姿を捉えている。
自らの尻尾に腰掛け、リリスもルイへと視線を向けていた。
ルイの剣が振り下ろされ、神槍がリリスへと放たれる。
神槍はリリスを飲み込む勢いで激しく迫り、そう離れていなかった魔神たちをすべて霧散させていた。
神槍は激しく光を撒き散らし、まるでガイアを穿つかのようにリリスに迫る。
リリスは立ち上がると、神槍に向かい剣の切っ先を合わせた。
黒く輝く瘴気がそこから溢れ、神槍と激しく削り合い消し去ろうとする。
だがリリスが剣の柄をグッと握ると、そのバランスは呆気なく崩れた。
周辺を太陽のように照らしていた神槍の光が弱くなり、徐々に夜の色が広がっていく。
神槍は次第に勢いを失い、小さくなって消滅した。
「あの神槍を――あれを消しちゃうとか嘘でしょ……」
ユスティアと同じように、クレアたちも疑うような目をリリスに向ける。
リリスは涼しい顔で、なにもなかったかのようにルイを見ていた。
だが神槍が強大なものであることをクレアたちは知っている。
ルイの最大魔力での雷でも消し飛ばすことができなかったゲートを、あの神槍はすべて消し飛ばしていた。
それはあれだけいた魔神すら、直接あたったわけでもないのにすべて霧散させていることが物語ってもいる。
それだけに、クレアたちは信じられないという目を向けているのだろう。
暗くなった夜空から地上へと降り立つルイには、リリスと魔神につけられた傷がすべて消えさっている。
ルイは神槍を放ったタイミングで、自身の傷を神聖魔法で癒やしていた。
神槍ではリリスを倒せないことを、ルイは知っていたからだ、
あくまで神槍は魔神たちをまとめて葬るためで、そのためにルイは地上で誘導をした。
「魔神で俺は殺れないぞ」
「――――」
リリスはゆっくりと歩み寄るルイに手をかざす。
「――インフェルノ」
地面をルイに向かって走るそれは、魔神が使っていたものとはまったく違う。
今は失われた銀色の炎と対極にあるような黒い烈火。
だが黒の炎がルイに届くことはない。
ルイとの間に虹色の盾が現れ、インフェルノがそれ以上進むことは許されなかった。
「コキュートス」
一瞬で発現したコキュートスが覆い、圧縮された激流がリリスを襲う。
だがリリスを貫くことなどできずにコキュートスは解ける。
それがわかっていたようなタイミングで、ルイの剣が迫っていた。
斜め下から突き上げるように斬り払いにいく。
それをリリスの目も見逃してはいない。
上から押さえつけるように剣を合わせ、ルイの動きを封じにくる。
だがルイの動きはそこから横へと流れていき、二撃目へと繋がっていく。
リリスの魔力、身体強化は絶大であり、それは圧倒的な力となる。
だが剣技、戦闘技術はルイに分があった。
ガイアに転生し、今まで積み重ねてきた戦闘経験はリリスにはないもの。
雷の神剣でリリスの剣を外側へと流し、漆黒の剣が空間を斬り裂いてリリスに迫る。
黒い竜の尻尾が間に割り込むが、ルイはそれを構うことなく斬りにいく。
「――――」
空間を斬り裂くディメンションルインを
魔神であれば一刀両断であったのだろうが、リリスを真に斬ることができるのは右手にある神剣。
それがわかっているルイは、雷を宿している神剣で斬るための道筋を探っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます