第134話 あとのない戦い
ルイはリリスが振り下ろした漆黒の剣を、右手にある神剣で受け止めた。
リリスは涼しい顔でルイを見ていたが、赤い瞳がルイの左手の剣に視線を移す。
ルイは右手首を返し、漆黒の神剣を外側へと開くようにさせてリリスの剣を下げさせた。
同時に空いている左手の神剣を滑らせるようにしてリリスの首を狙う。
「うまいっ」
アランが短く反応した。アランを含めクレアたちはそれぞれ持っている武器を握りしめ、始まってしまったルイとリリスの戦闘に目を奪われる。
ルイが持つ漆黒の神剣は、時空を司る加護。
空間を斬り裂き、そこにあるリリスの首に迫る。絶対に避けられない完璧なタイミング。
だがリリスの首からは青い血が一筋垂れただけ。
さらに追撃をかけるもう一方の神剣は、リリスの黒い尻尾が受け止めていた。
リリスの首についた傷はちょっとした切り傷程度のもので、首を落とすまでには程遠い。
そしてリリスの左爪が一閃。
ルイはすぐに後退して回避に転じたが、その爪の跡がしっかりと残っていた。
神の加護である鎧が四本線で裂け、薄っすらと赤い線ができている。
「…………」
リリスが首にある僅かな傷を撫で、指についた青い血を確認した。
「敵となるのはソレだけだと思うたが、ティアマトのせいか他でもこれくらいの傷は受けるか」
リリスがルイの右手にある神剣を見て呟くと、左右に展開されている黒い水の球体がリリスに引き寄せられる。
リリスがルイを見て口角を少しだけあげ、両腕をその球体に突っ込むと黒い球体が蠢き出す。
数秒で球体は静かになると、そこから次々と魔神が生み出される。
その数を見て、クレアたちの顔が凍りついていた。
「ルイくん、この膜を解いて! 魔神は私たちで押さえる!」
「ルイ様!」
魔神を生み出して球体が消えた頃には、三体ほどジャッジメントで霧散したのはいたが二〇体ちょっとという数になっていた。
ルイはあたるかどうかわからないジャッジメントを解き、魔力を温存させる選択をする。
そしてどうリリスと戦うのかを即座にシミュレートしていた。
加護を召喚している今のルイであれば、魔神とはいえどそれをやり過ごしながらリリスまで突破することは可能。
だがリリスと打ち合うことを考えれば、魔神は不安要素であった。
なにかのタイミングで魔神を斬る以外に選択肢がなくなった場合、そのタイミングでリリスに迫られれば対応できない可能性がある。
そしてこの場でリリスを倒せなければ、ガイアは永遠にリリスがいる世界となる。
そのリスクを考えれば、先にすべての魔神を倒す必要があるとルイは判断した。
「紫電」
雷が走ったかと思うと、そのときには魔神が一体霧散する。
だが魔神もそれに合わせて動いてくる。
魔神が霧散したタイミングで、別の魔神が刺突を放ってきていた。
それをルイは下から剣で跳ね上げ、もう片方でもう一体霧散させる。
「「「インフェルノ」」」
魔神の数が薄いグループから、青い炎が波のように走ってくる。
ルイはそれに視線を走らせ、アイギスを発現して防いだ。
「
ルイはリリスを極力視界に捉えながら、左手にある漆黒の剣を投げ放つ。
魔神はそれを剣で受け止めるが、
そのタイミングを使い、ルイは一直線に地上へと下りた。
左手を伸ばし、
何体かの魔神は空に残っているが、残りはルイと同じように下りてきていた。
一見すると上を押さえられるので、不利に思える選択。
だが地上に降りることで、少なくとも下を気にする必要がなくなるのはルイにとって大きかった。
だが魔神にとっても利がないわけではない。
スピードで上回るルイの動きが半分制限されるというのは、魔神も対応しやすくなることを意味していた。
三方から魔神が同時に迫り、ルイはそのなかの一体に向かって動く。
これによって瞬間的に一対一の状況を作り、魔神二体との時間を稼ぐ。
時間差でさらに迫る後衛に向かって一体を蹴り飛ばし、振り向きざまに一閃する。
「ディメンションルイン」
それは光景がズレるなんてほどではなく、空間が黒い剣閃によって裂けていた。
一体は胴が真っ二つになり、一体は胸のところから裂けて霧散する。
だがその間に別の方向から魔神は距離を詰めてきていた。
それをもう一方の剣で受け、弾きながら後ろからくる魔神をディメンションルインの返す剣で霧散させる。
だが次の一手にまでは届かない。魔神の爪がルイの片足を斬り裂く。
「ぐっ――――」
ルイが顔をしかめ、それに耐えて剣を振るう。
遅れて対応した剣は狙いすますことはできず、魔神の顔を両断。
核以外を斬っても魔神は再生するので、それ以外ならば時間を稼ぐための攻撃をするべきである。
だが瞬間的な対応であったため、そこまでの余裕がルイにはなかった。
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