第112話 ブルクの難民
聖戦が教団から宣言されてからというもの、クレアは軍務に追われていた。
ルーカンから来るブルクの難民の受け入れに、軍も参加していたからだ。
そしてこのブルクの難民のことで、セイサクリッドは問題を抱えていた。
難民を受け入れているセイサクリッドではあるが、国庫の支出が積み重なるのは目に見えている。
ブルクは国自体が滅んでいる状態であり、この支出がいつまで続くのかも見えないのだ。
「あぁ、ルイくん。私まで来てしまってすまない」
少し疲れた顔でデューンが言ってきた。
クレアと話があるようだったので、クレアにはそっちを優先するように言ってルイがミルクティーを淹れる。
「いつもウィリアムさんの紅茶を飲んでいるんだろうから口に合わないかもしれないが、よかったら飲んでくれ」
「いや、ありがたくいただかせてもらうよ」
一度カップを覗き込んでデューンが口をつける。
ゆっくりと一口飲むと、デューンは疲れた顔を綻ばせた。
「ミルクだけで入れているのかな? 少し甘いが、悪くない」
「あぁ。気持ちを落ち着けるとかにもいいが、疲れているときに甘いものは効果があるからな。
思考がぼんやりしているときなんかにもいいぞ?」
「なんでも、そういう成分があるらしいです」
「ルイくんは、私たちが知らないようなことも知ってたりするからね」
「なんでユスティアが得意気にしてるんだよ」
「仲間なんだからいいでしょ? デューンもせっかくだから、ルイくんに相談してみれば?
デューンやリドリアとは違った考えが聞けるかもよ?
なにしろ呪いの対応の仕方を変えたのも、ルイくんみたいだしね」
「――そうなのか?」
デューンはユスティアの言葉が本当なのかを、クレアを見て確認する。
まったく呪いのことを国が把握していないというわけではないが、その部分を担っているのはパナケイア教団であるため、デューンは詳細な部分を知ってるわけではなかった。
「ルイさんが知っている知識から推測されて、その効果を検証したといういきさつがあります。
それをエリスがまとめて教団に共有したという流れですね」
クレアの話を聞いて、デューンがルイに相談したのはブルクの難民のことだった。
軍を預かっているデューンではあったが、今回の件はリドリア宰相と共に頭を悩ませているらしい。
デューンたちもいつまでこの状況が続くのかはわからないので、ブルクの人たちが自分たちで生活ができるようにする他にないと考えているらしいが、問題はその方法だった。
「そうだな……なにをするにしても、場所が必要になるだろうな」
「場所、ですか」
「ああ。ブルクの人たちが住む場所も必要だろ? いつまでもテントでいるわけにもいかないだろうからな」
「ああ、その問題もある」
「権利関係がどうなっているのかわからないが、西地区をブルクの人たちに貸したらどうだ?
そこにブルクの人たちで住居やお店を作ってもらう。
一旦費用はセイサクリッドが持つ他ないだろうが、それで無駄になっている西地区を活用できるようにもなる」
ルイは借地として西地区を活用するという案を提示した。
そこに建物を建てることで、ブルクの人たちの住居の問題が解消される。
その建築は基本的にブルクの人たちに行ってもらうことで、仕事を用意することもできた。
そしてこれは、仮にブルクの人たちがセイサクリッドから離れるということになったとき、その建物をセイサクリッド側が利用できるということでもあった。
「ブルクの人たちと個人個人でというのは難しいだろうから、商会みたいな感じでブルクをまとめてもらうのがいい気がする。
なにかあればセイサクリッドが間に入れば、聖都の領民も安心して取引できるだろう。
それと優先した方がいいのはブルクの騎士だな」
「ブルクの騎士をどうするのだ?」
それまでほとんど黙って聞いていたデューンが、意外な名前が上がったようで訊いてきた。
「聖都はセイサクリッドの騎士で間に合っているだろ?
つまりブルクの騎士は役目がないと言ってもいい」
「あぁ、そうだな。だから我々の軍に協力してもらっているんだが」
「そこがダメだ」
ルイの指摘に三人の表情が固まった。
それがどうしてなのか興味があるようで、ユスティアが問い返す。
「ブルクの人たちの助けを考えると、少しでも協力してもらうほうがいいんじゃない?」
「いや。ブルクの騎士たちに賃金を渡すために助けてもらうっていう構図は、いずれ破綻する。
今の状態は表面的には役割があるように見える建前だけの状態だ。
これの意味するところは、なにもしていない者にお金を渡すのと結果は変わらない」
「確かに建前になってしまっている部分があるのは否定できないが、ではどうするのがいいと?」
「俺ならブルクの騎士たちはギルドに登録させる」
このルイの案には、デューンとクレアには驚きと一緒に拒否反応が顔に出ていた。
「ルイさん、それは」
「ルイくんはブルクの騎士たちに、傭兵と同じことをさせろと言うのか?」
「そうだ」
軍の騎士たちと傭兵では、大きく異るところがある。
軍の騎士たちは国のため、または領民など人々のために剣を取る。
だが傭兵はお金を得るために魔物を倒す。
同じ魔物を相手にするのでも、ここの違いは両者の決定的な違いとなっていた。
「西地区の件はよかったが、それはさすがに賛同しかねる」
少し残念そうな顔をデューンは見せて、ルイの淹れたミルクティーを一口飲んだ。
この話はこれで終わりだという雰囲気をありありとデューンは出している。
そんなデューンを見て、ルイは冷たく言い放った。
「三大貴族とは言っても、他の貴族と変わらないみたいだな」
「なんだと……」
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