第101話 ルイとジルニトラ

 ジルニトラが急降下して突っ込んだのは魔物真っ只中。

 塵となった魔物の下から、這い出してくる魔物たち。

 かろうじてジルニトラの炎を耐えて動けなくなっている魔物の向こうからは、さらに魔物が迫ってきていた。

 それに対し、ルイは周囲にいた魔物を二本の刀で一閃してグッと腰を落とす。


「ディメンションルイン」


 ルイが太刀を振るうと、魔物とともに景観がズレる。

 走ってきていた魔物は胴体が二分され、気づくこともなくバタバタと倒れた。


「――!」


 ルイが魔法を放つ間に迫ってきた魔物が、棍棒を振るってくる。

 巨大な棍棒を振るうその魔物は、焼けただれているが大きさからしてトロルなのだろう。

 遠心力も加わった棍棒がルイの背後から襲ってくる。

 だがルイは、その攻撃を視界で確認する前から動いていた。

 魔法を放った太刀とは逆の打刀を振るって受け止め、棍棒ごと魔物を力で弾き飛ばしてしまう。

 なおも襲いかかってくる魔物を次々と斬り捨てると、咆哮ほうこうが戦場を震わせた。


 ジルニトラが咆哮ほうこうをあげて右手の爪を振るう。

 たったその一振りで、数十体の魔物が倒される。

 ジルニトラはその勢いで回転し、今度は尻尾で魔物を薙ぎ払った。

 まるで土煙が巻き上がったかのように、魔物がまとめて舞い上がる。


「――、ジルニトラ! 身体がデカイんだから、ちょっとハンデがあり過ぎだろ!」


「我が肉体は神から授かりし天性のもの。今更だな」


 魔物を葬っている数は、圧倒的にジルニトラの方が上回っている。

 だが、ルイが倒している魔物が少ないわけではない。

 ジルニトラが振るう一撃の大きさが、人間であるルイとは違い過ぎるのだ。



「――隊長。これも、作戦なのですか?」


 騎士が小隊長に問いかける。

 一瞬で魔物の大半を塵にしてしまった白銀の竜。

 それと共に戦っている黒髪の騎士。

 その光景は圧倒的であり、そして異様でもあった。


「い、いや。私もこんな作戦は聞かされていないが……」


 隊員に問われた小隊長は、視線をクレアたちへと向ける。

 そしてそれは、他の隊も同じであった。

 唯一違うのは、クレアが小隊長の頃から一緒にいる近衛隊である。



「クレア様、どうしますか?」


 アランが戦場に視線を送っているクレアに声をかけた。

 ルイとジルニトラの乱入により、軍には動揺が広がってしまっていたからだ。


「今は……動けません」


 クレアはすぐにでも加勢に行きたそうな表情で戦場を見つめている。

 だがクレアたちが動いてしまえば、軍も連動して動いてしまう。

 ルイは広範囲の魔法を展開していないので、加勢をすること自体はできなくもない。

 だが隣で戦っている竜、ジルニトラが問題であった。

 ジルニトラの戦い振りは、文字通り規模が違う。

 軍が動いても、それはジルニトラの邪魔にしかならないのだ。


「魔物がこちらに迫るまでは、ゴードンには迎撃態勢で待機と伝えてください」


「はっ」



 ルイとジルニトラの蹂躙じゅうりんは留まるところをしらず、魔物の数は減り続ける。

 魔物の攻撃はルイに届かず、ジルニトラに限っては魔物の攻撃など意に介していない。

 だが、それらの魔物とは格の違うものがいる。

 それは魔物を巻き添えにして迫り、ルイを叩き潰すように上から前足を振るってきた。


「ディバインゲート」


 ルイは空間転移をして回避すると、クレアたちに視線を向けた。

 刀を横にし、クレアたちを押し留めるような身振り。

 顔を横に振り、動くなという意思表示をする。



「ルイくんっ!」



 ユスティアが叫ぶが、そのときにはすでにルイは魔獣に向かって加速していた。



「クレア? 本当に私たちは動かなくていいの? 相手は魔獣よ?」


「そうなのですが、もしかしたら本当に援護は要らないのかもしれません。

 ジルニトラがいるので範囲魔法を使っていないのはわかるのですが、たぶんルイさんは身体強化だけでほぼ戦闘をしている可能性があるかもしれません。

 ヴァルキュリアも使っていないようですし」


「いくらルイくんでも、魔獣が出てきてるし……」



 ユスティアがルイに視線を向けるが、ルイは魔獣に対してもさっきと同じように戦闘をしていた。

 ルイの圧倒的な戦闘は、身体強化をさらに強化してしまうところが大きい。

 これによって超速戦闘を可能にし、そのスピードを威力に乗せてしまう。

 それをしていない時点で、今のルイは戦力が半減していると言っても過言ではない。

 だからユスティアは思っていた。

 魔獣が出てきたら、ヴァルキュリアを使うだろうと。



「なっ! ルイのやつ、いったいどうなってるんだ」


「う、うそぉー」



 アランとユスティアが驚きの声を上げたが、クレアとエリスも目を丸くしてルイを見ている。

 まるでなにかの見間違いではないかというような表情で。

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