第102話 格の違い
魔獣の爪を回避し、ルイは回転することで遠心力を使って攻撃してきた腕を斬る。
斬った深さは刀身と同程度であり、物理的に斬れる最大と言えるものだった。
「大分減ったが、周りのが邪魔だな」
ベヒーモスだけに意識を取られるわけにもいかない。
ルイはベヒーモスを斬って、すぐに周囲の魔物へと向かう。
一刀で斬り伏せ、核を突き刺し、首を跳ねる。
ほぼすべての魔物を一撃でルイは仕留めていく。
その背中に向かって、ベヒーモスが横から腕を払ってきた。
そこでルイは回避を行わず、右手の打刀を鞘に収めた。
他の魔物を巻き添えにしながら向かってくるベヒーモスの前脚は、当然人間であるルイよりも大きい。
身体強化を行うベヒーモスの質量は、スピードに乗ることでさらに威力が増す。
それをルイは、空いた右手を合わせに行って止めた。
大きさが違い過ぎるせいで、ルイの手が手首までベヒーモスの肉球を突き破ってしまっている。
「ジルニトラの方が全然強いな」
前脚が止められ、すかさずベヒーモスが牙を向けて噛みに向かってくる。
それをルイは、魔物が集中しているところへ向けて蹴り飛ばしてしまった。
ユスティアが驚いているような声を上げるが、そうなってもおかしくはない。
ルイとベヒーモスでは大きさが違い過ぎる。
大きさ、質量は戦闘力に直結するものであり、さらにベヒーモスは身体強化を行う。
そんな攻撃を素手で止め、蹴り飛ばすなど常識では考えられない。
それをルイは身体強化だけでやっており、ヴァルキュリアという強化をまだしていない状態なのだ。
この事実は、今ルイがどれだけの強さであるのかをクレアたちが認識するには十分過ぎるものだった。
「なぁ、噂の魔神殺しの騎士って、確か黒髪じゃなかったか?」
「ああ。確か、クレア大隊長のところの騎士だって聞いたが」
聖都で魔神を倒したことで、ルイのことは噂になっていた。
この戦場にクレアがいるという事実が、さらにその信憑性を増すことになる。
蹴り飛ばしたベヒーモスに、ルイが追撃をかける。
蹴り飛ばされたベヒーモスは、他の魔物を巻き添えにして何度も地面を転がる。
やっと勢いがなくなり、仰向けの状態で止まったベヒーモスの真上にルイが急襲した。
「ディメンションルイン」
ベヒーモスの目の前で放たれる空間の斬撃。
それはベヒーモスの左胸部にある心臓を捉えた。
「――! ディバインゲート」
「インフェルノ」
空間転移をしたルイの目の前で、青い炎がベヒーモスを包んでいた。
蛇の顔を持つ魔神。
縦長に裂けたような瞳孔がルイを捉えている。
「あれは普通の竜ではないな。我らと同じような次元にいる竜に見えるが、あれはキサマの竜か?」
魔神がジルニトラを
ジルニトラはベヒーモスの左肩部分と左前脚を空中から掴んでいる。
宙に浮かされてジタバタとするベヒーモスの脚を、ジルニトラは引きちぎっていた。
「あんな凶暴な竜が、俺のものなわけないだろ」
「そうか。キサマは雷を使っていないようだが、我らに近い魔力を感じる。
キサマが加護を持つ人間だな?」
「わかるのか?」
横から斧を振り下ろしてきたミノタウロスを一閃し、ルイが問い返した。
「我はこの世界の魔力から生み出された魔神。我らが母と繋がる魔力を感じるのは道理であろう?」
「そういうことか」
「理解できたのなら、死んでもらうぞ」
灰色をした不気味な蛇の魔神が言い捨て、二股になっている鉾を突き出してくる。
体躯は細く、力強さというものは感じられない。
だが胴体がクネクネとして、突き出された鉾の予測を狂わせた。
予測したよりも途中で鉾が伸びてきて、ルイの腹部を突き刺しにくる。
それを外側から太刀で横へとルイは弾く。
同時に右手は打刀を抜刀して魔神の頭を突きに行った。
「――――」
ルイの刀が魔神の頭を捉えるかに思われたが、魔神の頭が奇妙にそれを躱す。
蛇の魔神ということだからか首が柔軟に動き、通常なら有り得ない動きで躱してきた。
同時にルイの顔に迫ってくる蛇。
どうやら尻尾が蛇の頭になっているようで、一メートルないくらいの頭がルイを飲み込もうとしてくる。
それをルイは右へと払っていた太刀の柄で迎撃した。
蛇を横から柄部分で打つ。
打たれた蛇の頭が大きく弾かれ、それに引きづられるように魔神も吹っ飛んだ。
「頭が二つあるなら言っといてくれ。少し驚いただろ」
ルイが言うが、それはルイよりも魔神のほうが相応しい目をしている。
魔神の目は大きく見開かれ、今の出来事が信じられないというような反応。
だがそれは、魔神だけではなかった。
「あれって、魔神……ですよね?」
「え、えぇ……」
エリスの問いに、ユスティアが上の空のような答えを返す。
「私にはあの魔神の攻撃がかなりのスピードに感じたのですが、ユスティアさんたちからすると違うのですか?」
続く質問に答えたのはアランだった。
「いえ、そんなことはありません。あの魔神の攻撃は変則的な感じは受けましたが、かなり速かったですよ。
それよりもおかしいのは、ルイの方です。
あれではまるで、魔神が完全に格下になってしまっている」
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