第79話 ルイVSユスティア

「インパクト」


 カルンはユスティアの魔法で弾かれ、ほとんど同じタイミングでルイはユスティアの剣を受けていた。

 つば競り合いの形になり、ルイの目の前にはユスティアの顔がある。

 珍しく必死で、焦っている表情で訴えてくる。


「ちゃんと話すから少しだけ待って!」


「なら剣を収めさせろ」


「なぜ私に魔法を! お前はどっちに付いてるんだ!」


「あーしてなかったら、アンタとっくに死んでたわよ! アンタたちも早く剣を収めなさいっ!」


 ユスティアがエルフたちを抑えるというので、ルイは一度ユスティアと距離を取る。

 ユスティアはルイの前で対峙し、クレアたちは状況を見守りながらも警戒だけはしていた。


「ユスティア様。まずは彼らを拘束して、話はそのあと聞きましょう。ここで囚えるぞ!」


 隊長らしきエルフが言うと、周囲に展開していた騎士たちがルイたちへ向けて手の平を向けてくる。


「銀牢」


 ルイたちを囲うように地面が盛り上がり始める。

 そこからは銀などの金属で創られたと思われるものが発現し、ルイたちを囚えようとしていた。


「アンタたち止めなさい!」


 ユスティアは静止を呼びかけるが、牢はすでに完成しようとしている。

 ルイはそれをさっきと同じように一閃し、相殺してしまった。

 完成しようとしていた牢が消し飛び、エルフたちが呆然とする。


「な、これだけの人数での精霊魔法だぞ」


「剣を向けているってことは、お前たちが殺られる覚悟もあるんだろうな?」


 ルイが隊長と思われるエルフへと間合いを詰めると、ユスティアがまたルイを押さえに来る。

 ルイは急停止してユスティアをやり過ごすと、ユスティアはそのまま狙われたエルフを蹴り飛ばした。

 エルフたちは呆然とそれと見てしまうが、ルイはユスティアに刺突を向ける。


「ルイ!」


 アランが叫ぶが、ルイが止まることはない。

 ユスティアはそれを剣で軌道を変えて、つば競り合いへと持ち込んだ。


「邪魔するならわるいが、動けないくらいまではやらせてもらう」


 ルイの目は殺気を帯び、その言葉にユスティアの顔に緊張がはしった。

 その一瞬ルイが力を抜き、ユスティアの剣を流す。

 体勢が崩れるユスティアに、ルイは腹部へと蹴りを入れた。

 後ろにいたエルフを巻き込んで、ユスティアは蹴り飛ばされた。


 ルイが視線を向けると、ユスティアは巻き込んだエルフを無視してすぐに間合いを詰めてくる。

 その間に魔法を発動しようとしていたエルフに、ユスティアはインパクトで弾き飛ばしていた。

 同時にルイの真上から、インパクトで狙う。

 ルイはそれを神聖魔法の盾で防ぎ、ユスティアの剣を受けた。


「お前はどっちの味方なんだ!」


「アンタたちのせいで、こうするしかないんでしょうが!

 言っとくけどルイくんが相手じゃ、聖遺を使っても道連れにできればいい方よっ!」


 元老院の一人と思われるエルフが非難するが、ユスティアの言葉に面食らっている様子だ。

 言葉をそのまま受け取るのなら、聖遺を使ってもユスティアの命はないということだったからだ。



「エルフたちがこれだけ強気なのは、精霊魔法があるからか?」


「――そういうところは、あるかもしれない」



 ルイは魔法を相殺する要領で、ユスティアを弾くようにして距離を取る。

 そして、ルイの言動に周りの者は目を疑った。



「パナケイア! コイツらを殺したくないなら、精霊魔法を押さえろ!」



 精霊魔法は、エルフの専売特許と言えるようなもの。

 威力も通常の魔法より数段上がる。

 それを押さえるなど、エルフの自尊心に触れるようなことだった。

 そしてそれを女神パナケイアにやらせるような口振りは、エルフたちにしてみれば看過できる内容ではない。



「女神パナケイア様に対して、なんと不敬な! もう我慢ならん!」


 カルンがルイを睨み、手をかざした。


「エクスプロージョン」



 さっきの銀牢はあくまでルイたちを囚えるためのもので、攻撃が目的の魔法ではなかった。

 トルネードにしても、それで死んでしまうような威力はなかった。

 だがエクスプロージョンは殺傷威力が高い魔法だ。

 これを選択したということだけでも、敵対的なのはわかることだった。



「な、なんだ? ……エクスプロージョン!」



 カルンが発動しようとしているが、魔法は発動しない。



「嘘……精霊が、魔法の発動を妨害してる」



 カルンの魔法が発動しないのを見て、ユスティアを含めたエルフたちが呆然とする。

 それを見たルイは真っ先に動いた。



「突破するぞ!」


「「「「――――!」」」」



 呆然としていたエルフに対し、ルイが刀の柄でみぞおちを打つ。

 側にいたエルフがその動きに驚いているところを蹴り飛ばし、ルイは包囲に穴を空ける。

 それを見たクレアたちは、すぐにルイの動きに合わせて反応した。


 ルイを先頭に、左右にはクレアとアラン。

 中央にエリスが位置し、その後ろにはユスティアがついていた。

 ルイはアブソリュートで磁場を発生させ、周囲のエルフの位置を特定する。

 できる限り視認がしやすいルートを取りながら、東を目指す。


 後ろからエルフも追ってきているが、追いつかれることはない。

 進路を塞ぎに来る者たちもいたが、魔法を発動しようとして呆然とする。

 その間にルイは距離を詰め、打撃によって道を開いていった。


「インパクト!」


 目的地にある見張り小屋には、エルフたちが二〇人ほど集まっていた。

 だが彼らも魔法で進路を妨害しようとして呆然としてしまう。

 そこにユスティアがインパクトを放って、小屋ごと弾き飛ばしていた。


「先生、小屋までやらなくてもよかったんじゃないですか?」


「あれくらいべつにいいわよ。損な役回りさせられて、こっちは殺されるんじゃないかって思ったんだから!」

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