第78話 エルフとの壁

 ルイが問いかけると、エルフたちは無言で視線を向けてきた。

 エルフたちの視線は肯定を示していたが、監視される理由がわからない。

 山に入ることが禁止されていて、それを現場で見咎められるのならまだ理解できる。

 だがその前段階で監視までつくというのは不可解であった。



「やはり動いたのか」



 応援が駆けつけたがそのなかにはハーランドとアロルドの他に、明らかに年長だとわかるエルフも何人かいた。



「カルンさん! まさか私たちを探ったの?」


「そういうことだ。人間が何人もいたのでな。念のために精霊に訊いた」



 話を聞いたユスティアが、いまいち理解できない部分があったルイたちに補足をする。



「年長者のエルフのなかには、精霊に簡単なことなら問いかけることができるのがいるのよ」



 短い説明だが、現状を考慮すればほぼ繋がる。

 精霊に訊いて、なにか怪しいということがあったから監視を付けたということなのだろう。

 こうなってしまっては仕方ないので、ルイは事情を話すことにした。



「俺たちは、あなた方が禁止しているという山に用があってきた」


「――なんだと」



 カルンと呼ばれたエルフの視線が鋭くなる。他のエルフたちもルイの言葉で緊張をしていた。



「俺たちは邪神リリスを完全に倒すため、女神パナケイアに会うために来た」



 ルイは冗談を言っているような雰囲気はなく、エルフもそれをわかってはいるようだった。



「御山への立ち入りは許さん。この御山は神聖な場所であり、我々が入っていいような場所ではない」



 カルンの返答は、ユスティアから聞いていたものと同じ。

 だがルイも行かないわけにはいかないので、なんとか突破口を探る。



「なぜ山に入ることをエルフが禁止する? エルフのなかでそう決めるのはかまわないが、人間の俺たちにまでそれを強要するのか?」


「我々エルフは遥か昔からここに住み、この地を守ってきた。それこそお前が生まれる以前からずっとだ」


「山になにかをするわけじゃない。ただ行って帰ってくるだけだ。

 エスピトに損害を与えるようなことなどもない。

 リリスを滅ぼせるのなら、エルフにとってもいいんじゃないのか?」


「必要ない。エルフには精霊魔法がある。我々全員で迎え撃てば、倒せずとも追い返すことくらいはできよう」



 ユスティアの精霊魔法は確かに強力で、全開ですべてのエルフが発動する精霊魔法であれば、リリスを退ける可能性はあるのかもしれないとルイは思った。

 少なくとも、全く対抗できないとは言い切れない。



「確かにこれだけエルフがいる精霊魔法なら、もしかしたら追い返すくらいは可能ではあるかもしれない。

 だが他はそうもいかない。人間たちはリリスが現れたら、いなくなるのを待つ他にない。

 町はリリスによって破壊され、死者も相当数出ているんだ。

 聖都は魔神が一体現れただけで、一部が焼野原になっている」


「それは我々エルフには関係なかろう」



 カルンの返答に、ルイは心がザワついた。

 今の言葉を素直に受け取れば、エルフでなければリリスに殺されてもかまわないと言っているのと同じだ。

 そしてこのカルンの言葉には、他の者たちも心穏やかではいられなかった。



「それでは我々人間が、いくらリリスに殺されようとも関係ないと仰るのですか?」



 クレアが問いかけると、カルンはそれを無言で返してきた。

 それを見てユスティアが口を開く。



「まだそんな考えを持ってるの? 昔と違って今は人間と交易もして、同じ世界で生きているでしょう?」


「お前たちがなんと言おうと、御山へ行かせるわけにはいかん。この者たちを拘束しろ」



 カルンの言葉で、周囲にいたエルフたちが剣を抜いて囲んでくる。

 ハーランドとアロルドの二人は、少しだけ残念そうな顔をして後ろへと下がった。

 他の年長者だと思われるエルフも後ろへと下がったので、たぶん彼らも元老院の一員なのだろう。



「お前たちの考えはわかった。もういい。関係ないというのなら、俺もお前たちと話すことはない。

 エドワードとカレン、二人と約束しているからな。

 勝手に山には行かせてもらう。言っておくが、死にたくないやつは下がれ」



 クレアとアランも剣を抜き、エリスを三角形で囲んで対峙する。



「ちょっと待って! ルイくん、私が話すから」


「なら道を開けさせろ」


「アンタたち早く剣を収めて! アンタたち本当に人間が死んでも関係ないとか思ってるの?」



 ユスティアの言葉に迷いが見られた者もいたが、剣を収めるまでにはいかない。

 神騎であるユスティアの言葉ではあるが、元老院の者が下した決定の方が重いのだろう。



「ユスティア! お前もエルフなら、その者たちの拘束を手伝え!」



 カルンがユスティアに言うと、そのまま魔法を放った。


「トルネード」


「バカッ! なにやってんのよ!」


 カルンが放った魔法はユスティアと同じように色が薄くつき、精霊魔法だというのはすぐにわかった。

 ルイはそれを太刀で一閃して消し飛ばしてしまう。

 そんなことをされるとは思っていなかったのか、エルフたちは信じられないという顔をしている。

 そしてルイが動こうとした瞬間、ユスティアが動いていた。

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