第77話 礼儀
ユスティアが対応して戻ってくると、ユスティアの他に四人のエルフが入ってきた。
一人は見た目が五〇歳くらいの銀髪の男性。
もう一人はルイとそう変わらない銀髪の若い男性と、その隣に金色の髪をエリスのようにハーフアップにしている女性。
この二人は年齢も近そうで、もう一人娘と思われる子供いるので親子なのだろう。
「娘がお世話になっています。ユスティアの父、ハーランドで、こちらが息子のアロルドです」
「姉がお世話になっています。弟のアロルドと申します。こちらは妻のイオナと、娘のティアと申します」
イオナと呼ばれた女性は笑顔で応え、娘のティアは少し恥ずかしがり屋なのか、アロルドの後ろからルイたちを見ていた。
クレアが最初に挨拶をして、順にルイたちを紹介していく。
「ルイと申します。神騎であるユスティアさんには、いつもお世話になっています」
「ちょっとルイくんっ! どうしたの?」
ルイが挨拶をするとユスティアたちが、え? という顔を向けた。
その様子にハーランドたちも同じような反応になってしまう。
「俺はいつでも礼儀を弁えないわけじゃないからな?」
ルイは都合上言葉遣いなどが雑になっていたが、礼儀など必要ないと思っているわけではなかった。
特にここエスピトでは国、種族がすでに違うので、聖都や騎士団での都合など当てはまらない。
むしろ最低限の礼儀を示した方が、いろいろと円滑になるくらいだ。
飲みものを用意するユスティアに、ティアがくっついていく。
恥ずかしがり屋みたいだが、ユスティアには懐いているらしい。
夕方にはハーランドたちは帰ったのだが、イオナは王族ということがわかった。
アロルドが婿養子で王家になったことで、ユスティアも王家に繋がっているらしい。
これには付き合いがそれなりにあるクレアとアランも驚いていた。
エスピトには王家と一緒に元老院というものが存在するらしく、元老院には主に年長者の者が一〇人いるということだった。
ハーランドも元老院の一人で、エスピトの政策に携わっている人物だ。
ティアはユスティアとしばらく会えていなかったからかユスティアと遊んでいたのだが、ルイの黒髪が珍しいのかちょくちょく遠目に見ていた。
その後ユスティアにエスピトを案内してもらい、問題が出てきた。
「山の入口に見張り小屋があるのは厄介ですね」
エスピトは森のなかにあるということもあり森を巡回する騎士と、壁で警戒をする騎士とがいた。
クレアが言っているのは、この警戒する騎士たちのことだ。
「普通に通るわけには行かないんだよな?」
「禁止されてるからまず無理ね」
「なにか手続きとかをすればいい、ということはないのですか?」
エリスが訊いてみるが、ユスティアの答えはノーだ。
だがリリスを倒すのに必要だとティアマトは言っていたこともあり、行かないわけにはいかない。
「穏便に抜ける方法はないのか?」
ルイの問いかけに、ユスティアは笑顔で答えた。
「夜間に突破しちゃいましょう。山に入ってしまえば、彼らも追ってくることはないから」
これにはみんな苦笑いになってしまったが、ユスティアがこう提言したということは、それ以外に方法がないということなのだろう。
ルイたちは一日ユスティアの家で休むことにし、翌日の夜間に行動することにした。
その翌日のお昼前、イオナとティアが遊びに来た。
ティアが来たいとねだったらしい。
「どうしてお髪が黒いの?」
「ティ、ティア?」
ユスティアの膝に座って、ティアがルイに訊いてきた。
イオナはティアの質問に慌てていたので、察することがあるのだろう。
「なんでだろうな? ティアの髪は薄い金色に見えるな。どうしてだと思う?」
ティアは難しい顔をして少し考える。ティアはカレンよりも少し小さいので、ルイは誤魔化すことにした。
「わからない」
「俺もわからない」
「そっか。でもね、ユス姉様は黒い色が好きなんだよ」
「ああ。そうみたいだな」
そう言ってルイは、カレンのときと同じように折り紙を見せた。
折り鶴を作ると、みんな物珍しそうにそれを見る。
だが子供には、紙ヒコーキの方が興味あるらしい。
左手に折り鶴を持って、右手で紙ヒコーキを飛ばしては拾いにいっていた。
紙ヒコーキはティアにも効果抜群で、風魔法なのかとルイは訊かれていた。
当然風属性がないルイには、風魔法は使えない。
それがさらにティアの好奇心を煽っていた。
そしてその日の夜中、ルイたちは旅支度を済ませてユスティアの家を出た。
どの家も明かりはついていない。聖都と違って街灯も少ないので、エスピトの夜はかなり暗かった。
「ちょっと暗いけど、このまま行くわよ」
ユスティアを先頭に、物陰から回り込むように進んでいく。
できれば壁伝いで行くのが一番安全なのだろうが、右には正門があり、左には王族の建物があって警備がいる。
壁の外からという案もあったのだが、夜間の巡回は森というだけあって多いようだ。
結局壁内から隠密に行くのが一番だというユスティアの助言に従ったのだが。
「ユスティア様!」
「「「「「――!」」」」」
火属性の魔法が周囲を照らし、ユスティアを先頭にしたルイたちを浮かび上がらせる。
魔法が使われると、すぐに他の騎士たちも集まってきた。
だがまだ一〇人くらいなので、早い段階で抜けてしまいたいとルイは考えていた。
「ユスティア様、また出かけられるんですか?」
二人のエルフが離れていく。別々の方向へ散ったので、応援を呼びに行った可能性が高かそうだった。
だがルイにはこの状況が腑に落ちない。
まるで見張られていたかのような状況で、これでは監視に近いと感じていた。
「クレアたちは弟子だから、ちょっと夜間訓練でもしようかと思って」
「それでしたら、私たちも同行させていただきます」
それも訓練だと言っているのに、同行するとまで言ってくるのは明らかにおかしい。
「俺たちは、監視されていたのか?」
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