第68話 三騎士
「なにかわかったか?」
王城の一室、将軍であるデューンの執務室で慌ただしく人が出入りしていた。
先に話していた騎士を後回しにし、デューンはいきなりドアを力任せに開けて入ってきた騎士に問いかけた。
「ま、魔神が現れました!」
「――他には?」
「い、いえ、他の魔物などの報告は現時点ではなく、魔神が単体で現れたようです」
「よりによって神騎殿がいないときとは……」
戦力バランスと機動性を考えてクレアたちに調査任務を任せたデューンだったが、結果的には裏目に出ることになってしまっていた。
だからといって、それを後悔して泣き言を言っていられる状況ではない。
「編成はどうでもいい! 選抜任務経験者は全騎士現場へ向かわせろ!
あとクレア大隊のゴードンに、近衛隊は私と一緒に来いと伝えろ」
クレアの隊は編成をしたとはいえ、短期間で隊が増員されてる。
すべての騎士がワイズロア防衛戦の経験者ではあるが、そのなかでも小隊の頃からいる騎士たちの実力は頭一つ抜けていた。
このメンバーをクレアは近衛隊とし、状況に合わせて隊を組んでいた。
それをクレアから聞いていたデューンは、調査任務でいないクレアに変わって指揮を取るつもりだった。
「リドリア宰相。私も現場に出るので、グロウに向かうように命令を出しておいてください」
「メディアス卿自ら向かわれるのですか?」
さすがに将軍が現場に出るという話に、リドリアは驚いていた。
宰相を任せられているこのリドリアは、三大貴族の一つに数えられるレグルント公爵家の現当主だ。
魔導士でもあり、ずば抜けて突出しているわけではないが優秀で、魔法以外の分野にも明るかった。
「編成をしている時間もない。すでに西地区の被害は甚大なものになっているはず。
直接指揮を取った方がいいでしょう。
申し訳ないが、もしものときは頼みます」
「わかりました。ですがデューン殿は将軍ですから、無理はしないでいただきたい」
「ええ。多少戦えるとはいっても、魔神を相手にできるとは思っていませんよ」
デューンはすぐに執務室を出て、クレアの副隊長であるゴードンたちと合流して西地区へと向かった。
「あれは、なんだ?」
途中でライルと偶然合流したシャインが、理解できないという顔をしている。
東地区にいたライルとシャインにも、西地区でなにかが起きているということは予想がついていただろう。
だが向こうの方に見える西地区は、青い炎に包まれていた。
西地区と中央地区の堺には、パナケイア教団の神殿がある。
セイサクリッドのパナケイア教団は、他のどの国よりも大きい。
これが神聖王国セイサクリッドの始まりでもあり、このことから聖都のパナケイア教団には一際大きな神殿と呼ばれる建物があるのだ。
敷地も王城と引けを取らない広さで、真っ白な幅広の低い階段が神殿へと伸びている。
そんな場所に、異質な存在がいた。
ライルとシャインは剣を抜き、それを油断なく見据える。
女性の人型ではあるが、どう見てもそれは魔物。
角が生え、尻尾が揺らめき、赤い瞳がなんの感情も持っていないように二人を見てきた。
「私と向かい合っても慌てることがないということは、少しは強いのか?」
「な――」
「――!」
ライルとシャインを見て、呆れたようにため息を吐いている。
「この世界の者は、お前たちしか言葉が話せないとでも思っているのか? まったくもって傲慢だな」
その魔神の向う側にある神殿から、聖騎士たちが七〇人くらい出てきた。
他にも治癒が行える者なども連れているようだ。
当然聖騎士たちも異型の存在に気づく。
「止まれ! 魔神だっ!」
ライルの忠告に、聖騎士たちの顔が凍りついた。
そんなこと気にもしていないのか、魔神の表情は変わらずにライルたちを見てくる。
「まともに話せるのはお前たちだけみたいだな。いいだろう。
お前たちがもし知っていれば、今回はそれを除いて他は生かしておいてやる。
加護を持った者を知っているか?」
ライルとシャインは一瞬目を合わせ、シャインが答えた。
「なんのことを言っているのか、わからないな」
「そうか。少し質問を変えようか。強いやつはいるか?」
「グレーターロック!」
魔神に向かって大小様々な石、岩が集中砲火で押し潰す。
街の建物と同じ高さくらいの山ができあがり、それはギュウギュウに敷き詰められていた。
「グロウ?!」
「魔神だってな。案外聞いていたより大したことないな。これで俺も魔神殺しだな」
片手で愛用の大剣を肩に担ぎ、グロウが笑う。
「――! ワールキャステル」
シャインが魔法を発現すると透き通った氷壁が現れ、グロウが放ったグレーターロックを阻んだ。
「お前程度の魔法で、私を押し潰したとでも思ったか?」
グレーターロックから出てきた魔神は、さっきとまったく違いはない。
傷一つなく、グロウの魔法は魔神の魔力を突破すらできていなかった。
聖騎士たちの方にはけが人が出ているようだったが、神聖魔法の盾が間に合った者もいるようで致命傷になっているのはいないようだ。
「魔法がダメなら、近接戦闘だな」
「グロウ、相手は文献に載っているような魔神だ。三人でやるぞ」
「ま、それが妥当だろうな」
グロウも魔神の力量をしっかり修正しているようで、ライルの言葉に素直に返事をしていた。
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