第61話 普通じゃない

 ルイが今言ったことは、通常ではあり得ないことだった。

 魔物はガイアの魔力から発生していると言われている。

 魔石が取れるような鉱山などは他よりも魔物の発生率が高いのも確認されており、この説はかなり有力な定説となっていた。

 だがその魔力を感じるという話など、今まで一度として出たことはない。

 しかしクレアたちにとっては、このルイの言葉には信憑性があった。


 この世界は女神ティアマトが基になった世界であり、ルイはその女神ティアマトの加護を授けられている。

 この世界の魔力に、最も近い存在と言っても過言ではないからだ。

 そのルイが魔力を感じるというのであれば、その可能性は決して低くはないといえた。



「ルイくんって面白いことを言うのね。私はなにも感じないけど、確かに地図を作りながらの方がよさそうよね」



 唯一ティアマトのことを知らないユスティアは不思議そうな顔をしていたが、それでもルイの提案には賛成のようだった。



「わかりました。一度戻って態勢を整えましょう」



 クレアたちは一度戻り、食事と休憩を挟んで再度ダンジョンに挑む。

 地図を起こすのは、ルイとユスティアの間にいるエリスとなった。

 ダンジョンということもあり空気が薄くなるのを防ぐため、アランは灯り以外に極力魔法を使わない方針となる。


 淡い光でぼんやりとした先に、影のようなものが見える。

 アランが灯りをさらに広げると、そこにはさっきのクモの魔物が三体いた。

 さっきと同じように、クモは機敏な動きで距離を飛ぶように詰めてくる。


「ジャベリン」


 即座に出現した一〇数本の氷針が、二体のクモに向かって放たれた。

 残りの一体は、そのまま先にアランに迫り噛みつこうとしてくる。

 だがアランの間合いに入る手前で、ルイの神聖魔法の盾がクモを足止めした。


 ダンジョンの通路はそれなりの広さがあるが、それでも戦闘ということに関しては狭いことには変わらない。

 回避行動は陣形が崩れるという側面も出てくるため、ルイが防御という選択をしたのだ。


 神聖魔法の盾によって一瞬動きが止められたところをアランは一振りで両断し、そのまま前に出る。

 先行して前に出ていたクレアが二体目を刺突で仕留め、三体目をアランが一閃した。



 他にもグールやアルプといった魔石を核とした魔物とも遭遇し、このダンジョンは森と似たような性質であるとクレアたちは結論づける。

 さらに進んでいくと、アランの魔法は必要ないくらいの明るさをダンジョンが放っていた。



「この量はなによ? こんなの多過ぎる」



 ユスティアの目が見開かれ、ダンジョンの壁という壁を見渡す。

 あっちこっちに魔石があり、魔力が多く通っているせいか大きさもかなりのもの。

 それが光を発していて、外にいるような明るさになっていた。



「奥に来るほど、感じられる魔力が多くなっている。

 この辺りの魔物の発生が多くなっているのは、このダンジョンが原因かもしれないな」



 魔石が発掘されるところはガイアの魔力が流れているとされており、そこでは魔物の出現も多くなる傾向がある。

 それにも完全に一致する現状に、クレアたちは息を呑んだ。


 ルイは側にあった大きな岩のような魔石に手を触れる。

 探るような雰囲気のルイに、他の者は黙って見守っていると、三〇秒ほどしてルイの顔があがった。



「魔力が流れてくる魔石に触ってわかったが、かなり大きな魔力の流れがここにきている」


「ということは、このダンジョンは今後もさらに魔物を増やし続けると?」


「推測にはなるが、外の森などより魔物の発生は多くなるだろうな」



 ルイとクレアの話を聞いて、ユスティアが対応策を出した。



「なら土属性を使える魔導士で、このダンジョンを埋めてみる?

 でも違った形で影響が出そうな感じはするし、下手したら魔物の発生場所が森に代わるだけになるかもしれないわね」


「その可能性が捨てきれないのなら、このダンジョンは残しておく方がよさそうですね」



 エリスの案はもっともだと言えた。

 少なくとも魔物がダンジョンを出るまでは、ここに集めておけるので被害を少なくできることも考えられる。


 ルイはもう一度魔石に触れ、流れてくる魔力の流れを辿る。

 それは枝葉のように、幾百にも分かれていた。

 さらにその流れ、本流を感知する。

 他の流れよりも太く、大規模な魔力の流れ。



「他にもなにかわかりそうなのか?」



 アランがルイに声をかけるが、ルイがそれに答えることはない。

 なにかに集中しているようで、クレアたちはルイの言葉を待つ。



「もう少し離れてろ」



 ルイが視線だけ向けてクレアたちに言う。

 状況がわからないクレアたちであったがルイの指示通り離れると、突然ルイの身体から雷がほとばしった。



「「「「――!」」」」



 一度ワイズロアで見ていたクレアたちは突然のことで驚きはしたが、それでも慌てることはない。

 だが、あの場にいなかったユスティアはそうではなかった。


「雷属性?! あの現象力はなに?」


 いつもの軽い口調がなりを潜めてしまい、クレアとアランも見たことがない驚き方をユスティアがしている。



「精霊が働きかけてる」


「え? 先生、ルイさんはエルフと同じ精霊魔法を使っているのですか?」


「ええ。ただ私たちエルフとは違う。私たちエルフは、精霊に助けてもらってる。

 でもルイくんの場合は、精霊自身が使命みたいに働きかけてるわ。

 こんなの、普通じゃない……。

 ねぇ? ルイくんって、本当にただの人間なの?」

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