第62話 認識の乖離
まるで魔石を通してなにかを見ているように、ルイの視線は魔石を捉え続ける。
ワイズロアでの魔法と同じような規模の魔力が周囲を覆い、ルイの周りには雷がバリバリと
ルイが触れている魔石にも雷が発生し、まだ合流して間もないユスティアは今の状況に不安と恐怖が混ざったような顔をしていた。
ガイアを流れる太い魔力の本流を感知し、それとは真逆の魔力をルイは練り上げる。
雷属性の魔法を扱うルイは、いつもプラスとマイナス性質の魔力をイメージしていた。
それとイメージは同じ。違うのは一方の魔力は決まっているので、それに反発する魔力を雷として発現させる。
だがそれが小さければ意味をなさないので、反発させるだけの魔力が必要なのは明白だ。
ルイが魔力を放出させると、ダンジョンに流れ込んできていた魔力と衝突する。
「ルイさん?」
雷がバリバリと発生しているなか、ダンジョンで地震が起こる。
あまりの大きな揺れにクレアたちは立っていられず、膝をついて地震が止むのを待った。
最後に大きな縦への揺れで身体が浮きあがったとき、地震が止んだ。
「はぁー、はぁー」
頬を汗が伝い、ルイはその場で息を整える。
クレアたちはルイの下へ駆け寄って、なにをしていたのかと訊ねた。
「ダンジョンに流れてきていた魔力を散らした」
「散らした?!」
アランが珍しく素っ頓狂な声色で言い、クレアはホッとしたような感じと、諦めた感じのような顔をルイに向ける。
「少し魔力の流れを変えてみようと思ったんだが、それができそうもなくてな。
最終的に強引にいったら散らすことになった」
ルイがやったことは、比較できるようなものがない。
だから今起きたことがどれほどのことなのか、ルイも含めてわかる者などいなかった。
ただ、なんとなく規模が大きいということだけは、クレアたちにも理解できることだった。
「ねぇ? いった――――!」
「「「「――!」」」」
ユスティアがルイに話しかけた瞬間、周囲に異変が起こる。
黒い靄が現れたかと思うと、次々と魔物が発生し始めた。
「マズイ! 囲まれる」
ユスティアがすぐに動き、出現しかけていた魔物を斬り捨てて包囲を破る。
クレアとアランもすぐに続き、ルイはエリスの後ろについた。
まだ完全に出現しきっていない魔物を斬り捨てながら、ユスティアのあとを追う。
ユスティアの向かう先は壁。
背中側だけでも気にしないで済むのは、戦闘においてだいぶ違う。
ユスティアは壁から八メートルほどの距離を取って向きを変えた。
クレアとアランも同じような距離で向きを変え、エリスはユスティアたちをすり抜けるように奥側へと位置を取った。
それなりの広さがある程度確保できている場所で、エリスを中心とした半円の陣形となる。
「みんな随分と冷静ね? それなりの数を相手にしなければいけなそうなのに」
ザッと見回しても、二〇体くらいは魔物が出てきそうな感じではある。
だがクレアたちが浮足立つことはなかった。
「ワイズロアではもっと酷かったですから! 今回は先生もいますから、期待してます」
アランがらしくなく軽口を叩いて剣を構える。
それを見たクレアも余裕を持っているようだった。
霧から現れた魔物のなかには、カースナイトが七体出現している。
厄介な魔物であるためか、それを見てユスティアが舌打ちしていた。
「ッチ。カースナイトは何体か私が受け持つから、その間に他のを減らせる?」
ユスティアが三人に確認するが、ルイがクレアとアランに問いかけた。
「二人ともやれるな?」
「もちろんです」
「なんのために訓練してきたと思っている!」
「エリス、場所を変えることができないので、魔法での援護は最小限にしてください」
「わかりました!」
エリスの魔法は水属性なので、使い過ぎれば足場が悪くなってしまうことを危惧してクレアが指示を出す。
落ち着き払って戦闘準備を即座に終えるクレアたちを見て、ユスティアは呆気に取られているようだった。
状況的に今の話からすると、どう考えてもカースナイト共々相手にするような内容だったからだ。
そしてユスティアは、すぐに自分の認識を改めさせられることになる。
カースナイトを筆頭に、ミノタウロス、カースナイトの下位互換といえるデュラハン、鉱山に多いゴブリンと同系属のコボルトが出現していた。
一番手っ取り早く戦況を好転させるのであれば、一度倒してしまえば減らすことができるミノタウロスとコボルトだとルイは優先順位をつける。
「カースナイトとデュラハンは足止め程度で、ミノタウロスとコボルトを俺とユスティアで先に叩く。
クレアとアランは一つ後ろで、カースナイトとデュラハンだ」
「ちょっと待って! カースナイトは七体いるのよ? デュラハンだって――」
完全に出現した魔物たちが動き始め、ルイはユスティアの言葉を無視して先に動く。
それを見てユスティアも仕方がないという感じで、一度だけクレアとアランに視線を移して前に出た。
ルイの太刀が白く輝いたかと思うと、その太刀はカースナイトの大きな盾を不自然に斬り裂く。
それはカースナイトの左腕までも同時に斬り裂き、カースナイトからは黒い輝きが出ていた。
通常ではあり得ない現象に、ユスティアは目を見張る。
ルイはそのままもう片方の打刀で片脚を斬り、バランスを取れないカースナイトをクレアたちの方へと蹴り飛ばした。
そのまま次のカースナイトとデュラハンも腕を斬り裂いていく。
再生している間に次の相手を斬り、優先すべきミノタウロスとコボルトへの道を開いていった。
ユスティアも同じようにカースナイトを斬るが、大剣や盾に関してはルイのように斬ることなどできない。
それどころかカースナイトを斬ったとしても、ルイのように斬り裂くなんて現象は起こらなかった。
数秒でユスティアが斬ったあとは再生されてしまい、ルイが斬ったような時間稼ぎもできない。
だがこれが普通であり、だからこそカースナイトは複数で任務にあたる魔物なのだ。
「インパクト!」
目の前のデュラハンとコボルトを精霊魔法のインパクトで弾き飛ばし、ユスティアはその先にいるミノタウロスへと向かう。
「スヴェル」
途中に割り込んできそうだったデュラハンの剣をエリスの神聖魔法が防ぎ、ユスティアの道を作る。
隆々とした筋肉から振り下ろされるミノタウロスの斧を、ユスティアは下から剣を合わせにいって弾いた。
傍から見れば完全に力負けするような体格差だが、それをなんなくユスティアは覆す。
下から払った剣をそのまま回転することで二撃目へと繋げる。
腹部を回転しながら両断すると、後ろでカースナイトを斬り裂くクレアとアランの姿がユスティアの目に入った。
二人の剣もルイと同じく白く輝き、カースナイトを斬り裂いた場所からは黒い輝きが出ていた。
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