第58話 恋心
クレアたちがやろうとしている訓練は、今までの魔法騎士たちの戦い方とは違うものだ。
それにはこの世界では発展していない、化学的な部分が必要ではあるのだが。
ルイは特別科学の分野に明るいわけではない。
なんとなく知っているという範囲でしかないため、細かい部分はそれぞれに任せる他になかった。
「王城からの使いで参りました。神騎ユスティア様ですが本日は王家との会食があり、そのまま王城にてご宿泊される旨を伝えるようにと」
今日は用事があるとユスティアは出ていたのだが、どうやら王家と関連することだったらしい。
クレアたちはユスティアの分も料理していたところだが、明日の朝食にでも回すしかないだろう。
ルイはキッチンへ戻り、今聞いたことをクレアに伝えた。
「そうですか。王家が先生と聖都の繋がりになっていますからね。
先生が聖都に留まるので、会食をセッティングしたのだと思います」
「あれでも、本当に神騎なんだよな」
ルイが呟くと、クレアは苦笑いで返してきた。
ここでのユスティアを見てしまうと、神騎の威厳なんてほとんど感じない。
それをクレアもわかっているから、ルイから出た言葉を聞いて苦笑いになってしまったのだろう。
料理を終えてテーブルに運ぶと、二人の食事になる。
思わぬ二人きりの時間になったため、それを意識してしまうのか静かな食事となったのだがクレアから口を開いた。
「今やっている訓練もそうですが、どうしてあのようなことをルイさんはご存知なんですか?
ルイさんのいた世界では、あのような知識は当たり前の教養なのでしょうか?」
クレアからすれば、疑問に感じるのもわかることだ。
この世界には魔法があり、それがインフラにも使われているような世界。
医療にしても万能と思えるような奇跡があり、地球とは発展の仕方がまるで違う。
科学は原因などを特定して、解明していくことで発展してきた。
だが魔法は、それをせずとも結果が得られる。
魔法と科学との違いはルイが当たり前のことでも、この世界ではそうではないことも多いのだ。
「俺は専門家じゃないから、そういう意味では一般的なことしか知らないと思う。
たまたまどこかで見た知識とかで、一般的なものではないのもあるかもしれないが」
それからルイは、地球では病気は成分によって治療することを話した。
一つの例として、医療分野が一番わかりやすいと思ったからだ。
「なるほど。医療など、いろいろな分野で科学というのは使われているんですね」
「こっちの魔法と近い感じかもしれない」
クレアの提案でワインも少し飲み、二人の会話も弾む。
他に誰もいないというのもあったのだろうが、話の中心はルイが住んでいた世界のことが多かった。
クレアが次々と質問したからだ。
刻々と時間は過ぎていき、そろそろクレアを送った方がよさそうな時間。
ユスティアが今日はいないので、クレアがルイの家にいる意味もない。
ここ数日賑やかだったというのもあるが、ルイはクレアと離れることに寂しさを感じていた。
「いつも最後でしたから、今日は先にお風呂どうぞ」
クレアが洗った食器をルイが拭いていると、クレアにお風呂を勧められる。
だがさすがに二人でいるのに、女性一人で帰すのもよくない。
それに、もう少しクレアと一緒にいたいとルイは思っていた。
「いや、家まで送るから後でいい」
「……帰った方が、いいですか?」
少し残念そうな顔で、クレアがルイを見る。
今の言い方からすると、クレアは今日も泊まるつもりだったみたいな言い方だ。
「先生は明日にはまた戻ってきますし、今日だけ帰っても」
「そうだな。クレアがそれでいいなら、好きにしてくれていい」
「はい。では私を送る必要もないですから、お風呂にいってきてください」
少しだけうれしそうにクレアは言い、食器を拭き始めた。
まるで恋人と同棲しているような状況に、感覚が錯覚してしまいそうになる。
この生活も、ユスティアが家を決めれば元に戻るのだ。
ルイがお風呂をあがってベッドに横になっていると、ドアがノックされた。
声をかけると、ドアが少し開いてクレアが入ってくる。
もう寝る前だったようで、丈が短い水色のシルキーなガウンを着ている。
ガウンが短過ぎるのか、それともクレアの脚が長いのか、太ももの大部分が見えてしまっている姿。
ガウンは腰のところで紐がキュッと結ばれ、胸とお尻がどうしても女性を感じさせてしまう。
「お、起きていましたか?」
「あ、ああ。まだ起きていた」
ルイが身体を起こすと、クレアはベッドに腰かけた。
身体を捻ってルイの方を見ると、クレアはそっと唇を重ねてきた
視線が合うと、クレアの瞳は少し潤んでいるように見えた
「これがどういうキスなのかわかっているはずなのに、勘違いしてしまいそうです――」
今度は腕を回し、身体をルイに寄せてキスをしてくる。
ルイの身体にはクレアのやわらかい弾力が自然と押し付けられ、お風呂あがりの花のような香りがルイを包んだ。
このままクレアに浸っていたいという気持ちもルイにはあったが、ルイは唇を離してクレアを見た。
「申し訳ないんだが……謝らなきゃいけないことがある」
「…………なんでしょうか?」
あまい雰囲気のなかでのこと。
ルイの言葉は、クレアを不安にさせているようだった。
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